2019 Fiscal Year Research-status Report
退職前後の高齢者の生活水準についての応用ミクロ経済学分析
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19K01729
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
暮石 渉 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障応用分析研究部, 第3室長 (00509341)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若林 緑 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (60364022)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 時間選好 / 選好の安定性 / 年齢 / 時間割引 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高齢者の生活水準が退職後にどう変化するかを明らかにするものであり、これは政策的・学術的にも重要な課題である。 高齢者の生活水準の問題を、標準的な経済理論であるライフサイクル仮説から考えると、Forward looking な家計や個人は、退職のような所得の予期される変化に対して、消費の限界効用を平準化させるはずだ、ということである(Modigliani and Brumberg (1954) や Friedman (1957))。しかしながら、退職にともなう消費の急激な低下が観察され(Banks et al (1998) や Bernheim et al (2001))、標準的なライフサイクルモデルでは説明しきれないことから、退職後の消費水準の低下は「退職消費パズル」と呼ばれ、研究されてきた。本研究は、この理由を日本の長期家計パネルを使って明らかにするものである。 本年度は、慶應義塾大学の「日本家計パネル調査」をメインとして、大阪大学の「くらしの好みと満足度パネル調査」を補完的に使用し、「時間割引率が年齢に依存せず一定である」という仮定の妥当性を検証した。その内容は、共同研究者の東北大学経済学研究科の若林緑准教授、フランクフルトゲーテ大学の辻山仁志准教授、および、Hannah Paule-Paludkiewicz氏とともに、論文Time Preferences over the Life Cycleとしてまとめられ、SAFE Working Paper No. 267として公表された。ライフサイクルモデルにおいて年齢に依存した時間割引率を考慮することの重要を指摘するなど、良好な進捗であるといえる
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、共同研究者の東北大学経済学研究科の若林緑准教授、フランクフルトゲーテ大学の辻山仁志准教授、および、Hannah Paule-Paludkiewicz氏とともに、論文Time Preferences over the Life Cycleを執筆し、SAFE Working Paper No. 267として公表した。 本論文では、日本の代表的な長期パネルデータである慶應義塾大学の「日本家計パネル調査」を用いて、時間選好がライフサイクルの中でどのように変化するのかを分析した。本論文では、25歳から80歳までの時間割引率の年齢パターンを推定した。年齢効果を特定するためには、コホート効果とピリオド効果を切り離す必要がある。その結果、割引率は年齢とともに低下し、その低下の度合いは、ライフサイクルにわたって単調に線形であることがわかった。 この結果は、経済学や政策立案者の研究に重要な意味を持つ。例えば、消費のダイナミクスや貯蓄行動を分析する際、ライフサイクルモデルにおいて年齢に依存した割引率を考慮することが重要となるであろう。ライフサイクルモデルの推定においては、ライフサイクルにわたって変化しうる割引率を考慮することが適切であると考えられる。また、政策立案において、近年では多くの国で公的年金制度の補完として私的年金制度が導入されており、税制上の優遇措置や政府の補助金を利用して個人の老後の貯蓄を奨励している(日本のIDECOなど)。我々の結果は、これらの制度は若年者と老年者では異なる影響を与えることを示唆しており、したがって、年齢に依存したインセンティブ・プログラムがより効果的に機能することを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、計画の段階では3年目に行うことを予定していた、時間割引率の安定性について検証した。そこで、今後の研究の推進方策としては、本年度は、改めて、退職時の消費の下落を、仕事に関連した支出や余暇時間の面から検証することとする。これまで使用してきた「慶應大学JHPS/KHPS」を用いることで、食費や外食費、衣服費、通信費など詳細な消費カテゴリ別の金額がわかることから利用する。また、家事や通勤、睡眠など生活時間がわかるので、これらが退職によってどう変化するのかを見る。また、1年目に行った、時間割引率が年齢とともに低下するという結果を組み込み、標準的なライフサイクルモデルとどの程度整合的かを明らかにする。 加えて、貯蓄や負債、金融資産からアプローチを行う。つまり、消費とはコインの裏表の関係にある貯蓄や負債、金融資産が退職とともにどう変化するのかを調べることで、退職時の高齢者の生活水準がどう変化するのかを見ることができる点である。貯蓄が減っているのであれば、資産を取り崩して消費の平準化を行っていることがうかがえるのに対し、貯蓄が増えているのであれば、「退職パズル」が発生しているかもしれないので検証する。
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Causes of Carryover |
本年度末に、新型コロナウィルスの蔓延により、計画していた研究会が開催中止となり、旅費を中心に余りが出た。翌年度以降に、共同研究者が所属するフランクフルトゲーテ大学への訪問を増やすことで使用する。また新型コロナウィルスの状況次第では、ZOOMやSKYPEでの会議を行う頻度が増えるので、オンライン会議用の機器を購入する。
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Research Products
(3 results)