2020 Fiscal Year Research-status Report
スポーツ・スポンサーシップが企業価値に与える影響についての研究
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19K01751
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 史子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70347285)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スポーツ / スポンサーシップ / マーケティング / イベント・スタディ / 企業価値 / 株式市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
スポンサーシップは、広告と並び、企業にとって、重要なプロモーション活動であるが、広告に比べて消費者へのメッセージが間接的である上、明確でない。さらに、近年スポンサー市場の拡大とともに、スポンサー料が高騰しているため、コストに見合った効果があるのかどうかを測定することが、より重要となっている。本研究の目的は、スポーツ・スポンサーシップが、スポンサー企業やライバル企業の企業価値にどのような影響を与えるのかを明らかにすることにある。 2020年度は、スポーツ・スポンサーシップが、スポンサー企業とライバル企業の株価に与える影響についての研究と、スポンサー対象の競技成績が株価に与える影響についての研究が、査読付国際学術雑誌(Sport Management ReviewとJournal of Advertising Research)に掲載された。 次に、前年度に研究室の学生2名が行った研究をさらに発展させるかどうかを検討した。具体的には、スポーツ選手の競技成績や移籍、スキャンダルなどの様々なイベントが、スポンサー企業の株価に与える影響と、スポーツ選手への関心を表すGoogle検索強度との関連性を検証した。スポンサー対象は、日本のゴルフ選手と、2019年にForbesが発表した高額所得アスリート上位50名とした。その結果、明確な結論を得るのが難しいと判断し、研究を中断した。 代わりに、コロナ禍で浮上した、東京五輪延期問題が、スポンサー企業に与える研究について、修士課程の学生とともに、イベント・スタディ分析を行い、以下の結果を得た。①五輪中止に関する報道にスポンサーの株価は負に反応する。②五輪延期に関する報道にスポンサーの株価は正に反応する。③五輪に関するGoogle検索強度と株式出来高は正の相関がある。研究成果は論文にまとめ、2021年度に2つの国際学会で報告することが決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、スポーツ・スポンサーシップが、スポンサー企業とライバル企業の株価に与える影響についての研究が、研究室の卒業生との共著として、Sport Management Reviewに掲載された。具体的には、スポーツ・スポンサーシップの公表日をイベントとして、イベント・スタディ分析を行った。ライバル企業は、主力事業において、スポンサー企業と競合する企業の中から、同じ対象をスポンサーとしていない企業とした。スポンサー企業とライバル企業の株価反応が、スポンサー企業がスポーツ関連企業であるかどうかや、スポンサー対象が日本チームや選手であるかどうか、契約が新規のものであるかどうか、等によって、どのような影響を受けるのかを分析した。
第二に、スポンサー対象の競技成績が株価に与える影響についての研究が、研究室の卒業生2名との共著として、Journal of Advertising Researchに受理された。イベント日は競技成績が出た日とした。スポンサー対象が個別チームや個人の場合、ライバルチームや個人のファンからは、好意的に見られない可能性がある。このため、スポンサー対象を、国際大会に出場する、日本代表選手に限定して分析を行った。
第三に、五輪延期がスポンサー企業の株価に与える影響についての研究が、研究室の卒業生との共著として、2021年度に開催予定の2つの国際学会(International Atlantic Economic SocietyとWestern Economics Association International)に受理された。イベント・スタディ分析の結果、以下の結果を得た。①五輪中止に関する報道にスポンサーの株価は負に反応する。②五輪延期に関する報道にスポンサーの株価は正に反応する。③五輪に関するGoogle検索強度と株式出来高は正の相関がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度に第1稿を書いた、五輪延期がスポンサー企業の株価に与える影響についての研究を発展させ、査読付き国際学術ジャーナルでの掲載を目指す予定である。この研究では、前半のイベント・スタディ分析では、比較的安定した結果を得られている。まず、Google 検索強度を用いて、「オリンピック 中止」(2020年1月30日 と2020年2月26日)と、「オリンピック延期」(2020年3月24日)をイベント日とし、Fama-French 3 factor model及び5factor modelsを用いて、スポンサー企業の累積異常収益率を計算し、同様の特徴を有する、コントロール企業との比較を行った。その結果、「中止」についてはネガティブ、「延期」についてはポジティブな株価反応が生じた。五輪のスポンサー料は高額であるため、回収が不可能となる中止についてはマイナス、不確実性は高いとしても、投資額回収の可能性が残る延期についてはプラスに反応したと考えられる。さらに、スポンサーのランク別の分析を行ったところ、スポンサー料の大きな、ランクの高いスポンサーほど、影響が大きくなった。
次に、五輪延期に対する関心を表すGoogle検索強度と、スポンサー企業の株式売買高との関係について、重回帰分析を行った。その際、先行研究に従い、Goole検索強度について、3種類の定式化によるパラメタを用いた。しかし、検索強度の定式化次第で、結果が異なるなど、期間を通じて、安定した結果が得られなかった。このため、Google検索強度と株式市場との関係との関係についてての分析には、改善の余地が残っている。
さらに、研究室に在籍する学生たちと、野球、eスポーツ、テニス等、個別の競技について、SNSやGoogle検索強度とスポンサー企業の株価についてのより詳細な研究の可能性を探る予定である。
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Research Products
(4 results)