2020 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the Gains from Wage Rigidity in a Currency Union with Default Risk: Focusing on the Relationship between Terms of Trade and Fiscal Balance
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19K01755
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
岡野 衛士 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20406713)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 名目賃金の硬直性 / 共通通貨圏 / 経済厚生損失 / 動学的確率的一般均衡 / ニューケインジアン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はGali and Monacelli (2016, AER)のモデルに明示的に政府の予算制約式及び財政政策ルールを導入したモデルを導出し、共通通貨圏では賃金硬直性が高まるにつれて経済厚生損失が高まることを示した。より具体的には、家計の異時点間の最適化条件を伴う政府の予算制約を繰り返し代入した上で横断条件を課し、この条件式を2回の差分の条件式に書き直してGali and Monacelli (2016)のモデルに加え、さらにBohn (1998, AER)に基づいて公債発行残高が発行しないように財政黒字を確保するような財政政策ルールの下でこのモデルを解いた。モデルは対数線形近似されており、モデルは様々な名目賃金の硬直性(おおよそ0~おおよそ1までの0.025毎の値)を与えた上で解いた。ショックとしては生産性をはじめとして4つのショックを仮定した。 先にも述べたように、名目賃金の硬直性が高まるにつれて、共通通貨圏では経済厚生損失が上昇することが確認された。このことは名目賃金の硬直性は共通通貨圏において経済厚生損失を縮小することを示したGali and Monacelli (2016, AER)の結果とは全く異なるものである。Gali and Monacelli (2016, AER)と異なり名目賃金の硬直性が経済厚生損失を上昇させる原因を探るために限界費用と財政収支の関係を調べることにした。限界費用は賃金マークアップ率に依存するため家計の最適賃金選択のための1階の条件を限界費用にと賃金マークアップ率の関係式に代入したところ、財政収支と限界費用の間にPro Cyclicalityの存在が認められた。つまり、公債発行残高を無限先の将来にゼロにするような政策は景気変動を拡大させ、名目賃金の硬直性はこの景気変動を拡大させることが理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書にあるように本年度はカリブレーションによって共通通貨圏では賃金硬直性が高まるにつれて経済厚生損失が高まることを示した。また、この共通通貨圏における名目賃金の硬直性の上昇に伴う経済厚生損失の上昇がBohn (1998, AER)に基づく財政政策ルールがProcyclicalityを有することに依拠することも示すことができた。さらに、Mahdavi (2014, SEJ)のBohn (1998, AER)に基づく財政政策ルールについての実証分析の結果から先に示した結果の頑健性についても確認することができた。つまり、Mahdavi (2014, SEJ)が推定したアメリカ各州のBohn (1998, AER)に基づく財政政策ルールのパラメータの値を用いて名目賃金の硬直性と経済厚生損失の関係を計算したところ、どのようなMahdavi (2014, SEJ)の推定結果を用いても結果に変わりが無いことが理解出来た。 今年度の結果を多くのワークショップ、カンファレンス、学会がCovid-19の拡大抑制の観点から中止に追い込まれたことで報告の機会をほぼ得ることは無かった一方で、調書に示してあるように国際的に有力な学術誌に投稿するところまでこぎつけたので、調書に鑑みて本研究課題は概ね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はカリブレーションによって以下のこと、つまり、共通通貨圏では名目賃金の硬直性の上昇に伴い経済厚生損失は上昇する、この名目賃金の硬直性に伴う経済厚生損失の上昇はBohn (1998, AER)に基づく財政政策ルールが有するProcyclicalityに依拠することを示した。今後はカリブレーションではなくユーロ圏のデータを用いたベイズ推定の結果にしたがってこれらのことを明らかにする。同様に、頑健性についてもベイズ推定の結果に従って確認する。加えて、やはり調書に従って貨幣を導入したモデル、つまり財政収支に通貨発行益が加わったモデルにおいても同様のことがカリブレーションにおいても、ベイズ推定の結果にしたがっても言えることを明らかにする。 今年度は残念ながら多くのワークショップ、カンファレンス、学会がCovid-19の拡大抑制の観点から中止に追い込まれ、本研究課題の結果を報告する機会を逸した。今後はオンラインカンファレンス等にて積極的に報告することを心がけていく。また、得られた研究結果は国際的に評価の高い学術誌に投稿し、掲載されることを調書に示されているように目標として取り組む。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症拡大のため研究成果の報告のため参加を予定していた多くの国際会議等が中止若しくは延期となり旅費を中心として支出の機会を喪失したため。
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Research Products
(4 results)