2020 Fiscal Year Research-status Report
金融危機における最後の貸し手機能の評価:歴史データを用いた疑似実験アプローチ
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19K01759
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
澤田 充 日本大学, 経済学部, 教授 (10410672)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 金融危機 / 最後の貸し手機能 / 日本銀行 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、金融危機下における中央銀行によるLLRの役割を実証的に評価することである。特に、昭和恐慌期(1930-32年)における日銀による特別融通(緊急融資)の金融システムへの影響および実体経済への影響について分析を試みている。昨年度は、貸出成長率および預金成長率への影響と破綻確率への影響について検証を行い、LLRの正の影響を確認している。本年度は、さらに深い考察を行うために、1930年から1932年における特別融通の決定要因について分析を行った。そこでは、緊急融資は日本銀行と長期的な取引関係(『日本銀行沿革史(第3集)』より識別)を持っていた銀行に対して実施されたことが明らかになった。さらに、回帰分析などで銀行の健全性やパフォーマンスを表す変数でコントロールししてもこの関係性は頑健であることが示された。また、昨年度分析を行ったモデルでは、日本銀行との取引関係が貸出成長率および預金成長率に与える影響について、交絡因子などによる内生性の問題に対処するため金融危機前後で上記の関係が変化することを捉える差の差の検定によるアプローチを行っていた。この推計結果の妥当性を詳細に検討するため、まず平行トレンドの仮定について様々な角度から検討を行った。ただし、この仮定そのものを直接検証することは困難であるため、貸出成長率および預金成長率に影響をあたえる他の要因(銀行の健全性やパフォーマンス)について一般化された差の差の検定(Generalized DID)分析を行い、金融危機前後の影響の変化の検証を行った。その結果、これらの要因について日本銀行の取引先と非取引先で比較すると、水準自体には一定の差がみられるものの、それらのトレンドについて金融危機の前後で経済的な意味において大きな変化は観察されず、平行トレンドの仮定を棄却する結果は得られていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最後の貸し手機能の影響について、これまでの分析において、最後の貸し手としての緊急融資については、日本銀行と民間銀行の長期的な取引関係を『日本銀行沿革史(第3集)』から収集したものを用いていたが、内生性の問題があることは否定できない。そこで、日銀から民間銀行への実施された特別融通の量を操作変数に用いることが対処法として考えられる。現在、収集したデータは質的なデータとなっており、推計上ノイズが大きいことが判明した。量的なデータを用いることでより正確に推計することが望ましいと考えられるが、まだそこまで分析がいたっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
最後の貸し手機能の影響について、内生性の問題を解決するために、日銀から民間銀行への実施された特別融通の量を操作変数に使うことが望ましい。そこで、『特別融通残高表』(日本銀行アーカイブス)から日銀の特別融通の量をデータ化し、それを操作変数としてこれまでの推計結果の頑健性についてさらに検証を行う。また、当時の預金者が、民間銀行と日本銀行の取引関係を認識していたかどうかが推計結果を解釈する上で重要となるので、歴史的資料などを集め、この点について検証する。こうしたプロセスにより論文の質をさらに高め国際学術誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
米国に拠点を置く研究協力者を招へいするための旅費を計上していたが、当該研究者がコロナ問題のため来日できなくなったため、必要がなくなった。また、コロナの問題でリサーチアシスタントの勤務日が減ってしまったため謝金の支払いが減った。余剰分は、今年度において共同研究者の渡航費用や滞在費などに充てる予定である。
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