2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01779
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤村 聡 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (00346248)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 経営史 / 不祥事 / 学歴 / 高等教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
丸2年に及ぶコロナ禍により、本年も各地の図書館や文書館への史料調査を実施できず、作業の方針は大きな転換を余儀なくされた。そのため具体的な作業としては、本年度はウェブで入手できる高商の『学校一覧』を利用し、戦前期の各商社の従業員数を計測した。 課題の目的である各商社における企業不祥事に関しては、すでに論文として刊行した三井物産や古河商事以外に、内田商事・茂木合名・久原商事などでは、とりわけ投機取引が横行したと思われる第一次世界大戦期に、従業員の不正行為が社内に蔓延していたと伝える史料は少なくない。しかし、そうした商社の多くが大戦後の反動不況で経営破綻して姿を消したため、その経営規模や従業員の推移などは、現在ではほとんど分からないというのが実情である。 そこで本年度に発表した「貿易商社と神戸高商 -『学校一覧』による就業実態の分析-」では、神戸高等商業学校(昭和期は神戸商業大学)の卒業生のうち、三菱商事・古河商事・高田商会・大倉商事・高島屋飯田・伊藤忠商事・大同貿易・久原商事・芝川商店・長瀬商店・江商・日本綿花・湯浅貿易・内田商事に在職した人員を各年の『学校一覧』から1人ずつ拾い上げ、その人数の推移を観察した(兼松・三井物産・鈴木商店・茂木合名は、別稿で分析を終えている)。期間は1907年から1937年の約30年間で、対象となった卒業生は460名に達する。 分析の結果、各社に在職した卒業生数が俯瞰的に解明できたほか、大戦期に人数が急増した商社は経営破綻した一方で、人員の増加に抑制的であった兼松・三菱商事・高島屋飯田は大戦後も堅調に成長しており、そこから企業の成長は、資本の規模ではなく、従業員を増加させるか否かという経営意思に規定されていたのではないか、という見通しを得た。本稿は、不祥事の分析の前提になる各社の経営動向の一端を明らかにしたと位置づけられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
すでに長く続いているコロナ禍で、本課題で主要な作業に想定していた各地への史料調査が不可能になったのは、研究計画の遂行における最大の痛恨事と言わざるを得ない。 課題初年は東京の三井文庫や東京都立図書館に赴き、大量の関係資料を採集したものの、その後、丸2年間は日本全国を覆ったコロナ禍によって出張は事実上不可能になり、学内での作業を余儀なくされ、当初は予定していた本年度の史料調査は皆無に近い結果に終わった。分析すべき各商社のうち、特に三井物産に関しては、東京の三井文庫で渉猟すべき史料が残されており、それらは、いまだに採集できておらず、残念ながら手つかずの状態になっている。 ただし上述のように、出張による史料調査で新しいデータが獲得できなかった替わりに、国会図書館近代デジタルコレクションでウェブ公開されている『学校一覧』を利用し、神戸高等商業学校(現在の神戸大学)をはじめとして、各高商の卒業生の在職状況を通じ、幅広く各社の経営動向の一端を把握した。これは研究計画では想定していなかった有意義な成果であった。 また本課題には直接に関係しないものの、本年度は単著で近世都市の上水道における利用違反に関する英語論文を、海外のレフェリー雑誌に掲載した。上水道利用者の違反行為は、広義には "規律からの逸脱" にほかならず、それは企業の内部不祥事に相通じる問題意識であり、本課題とまったく無関係というわけではない。英語論文の執筆を通じて得られた有意義な知見は多々あり、とりわけ、これまでは知らなかった英文校正サービスが、近年は非常に充実していたことに驚かされた。また英語論文の作成に当たっては、懇意にしている海外の研究者から様々な助言を受けることができた。そうした英語論文作成の知見や経験などは、今後の研究発表活動につながると期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
早急にコロナ禍で "凍結" していた史料調査を再開したい。まずは東京の三井文庫が対象であり、特に第二次世界大戦期の三井物産で発生した不祥事に関する文書を探索、採集する予定である。また三井物産は全国各地に支店や出張所を設置しており、国内の各支店でも不正取引などの不祥事が発生したことが、すでに判明している。その中から特に深刻であり、同時に特徴的である事例を選び(たとえば名古屋支店の巨額手形偽造事件)、現地に赴いて裁判記録や地方新聞などの史料調査を行い、戦前期企業の不祥事の内実と企業の対処を明らかにする。 論文執筆では、古河商事を経営破綻に追い込んだ「大連事件」と、三井物産の明治期~第2次大戦直前の不祥事の概要は、すでに論文として発表している。そこで、兼松を含めて各商社の不祥事全般を分析したい。とりわけ、兼松では明治期から第2次大戦直前まで10件程度の不祥事が発生しており、神戸本店とシドニー支店の重役の間でかわされた業務書簡の『日豪間通信』には、それらの事件の取調書や処分が詳細に記載され、極めて精密な事案分析が可能である。 また三井物産に関しては、2018年にイタリアで開催された European Business History Association において清水泰洋氏(神戸大学経営学研究科)と共同研究者として分析結果を発表した。本課題で明らかになった新たな知見についても海外の学会で発表し、英語論文を作成する。 現在、十数年間の研究成果として単著の書籍刊行を計画しており、同書ではページ数の関係から、その内容は二部構成を予定している。まず第1部では、各業種で極めて特徴的であった戦前期商社の賃金構造を明らかにしたのち、第2部で本課題で進めている商社の内部不祥事を叙述する。その論著に結実できるように本課題の着実な遂行を期したい。
|
Causes of Carryover |
昨年度に引き続いて、本年度もコロナ禍により、予定していた東京をはじめとする各地の文書館や博物館等への史料調査が出来なかった。そのため予算の相当部分を計上していた調査旅費が手つかずのまま残っている。 2022年度には、その遅れを取り返すべく早急かつ積極的に各地への史料調査を実施し、新たな史料を得て研究成果を発表する。
|
Research Products
(2 results)