2021 Fiscal Year Research-status Report
近世金融市場における利子率の決定因分析:江戸・大阪における武家貸と家質貸
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19K01780
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鷲崎 俊太郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (50306867)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 明治時代 / 東京 / 内幸町 / 三菱 / 土地不動産 / 借地 / 江木保男 / 増島六一郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症対策の施設休館措置のために,テーマを江戸の土地市場から明治東京の土地市場にシフトさせて,研究を進捗した。そのケーススタディとして選定したターゲットは,明治後期から大正期にかけて,東京市麹町区内幸町1丁目の土地を購入・所有し,賃貸経営を実施した三菱合資会社である。 この研究を実施するために,まず三菱史料館において,1890年代から1920年代までの「貸地貸家根据簿」,「収支証書」類に書き遺された同地の賃借人氏名・地代・区画に関するデータを収集した。また,東京都公文書館からは,東京府が同地所を三菱に売却することに関係する史料を取り寄せた。これらの史料から,同地所の借地人の特色を分析するとともに,その一人だった弁護士・増島六一郎が借地を利用して自ら貸家・貸事務所経営を行っていた実態を追求することに成功した。この成果は,2022年度の政治経済学・経済史学会秋季学術大会で報告するとともに,鷲崎俊太郎[2022]「明治後期における三菱の内幸町地所購入とその貸地利用」,『三菱史料館論集』第23号,97-128頁として,査読付で掲載された。 第2に,この内幸町地所の借地人だった江木保男(京橋区丸屋町江木写真館創設者)という人物に着目し,その兄である江木高遠とともに,明治期における江木家が東京の近代都市化に果たした役割を,ファミリーヒストリーとして視野から分析した。江木家に関しては,両名の父である儒学者・江木鰐水が福山藩の儒学者として殖産興業政策に取り組んだことが知られているが,高遠・保男については,従来の研究に断片的に登場するものの,生涯を通じた事実関係が明らかになっていなかった。この研究成果は,鷲崎俊太郎[2021]「近代東京における旧福山藩士族のファミリーヒストリー分析」,『経済学研究』第88巻第4号,19-44頁に掲載・刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症対策の施設休館措置のために,史料収集が困難な状況が昨年度続いていたが,若干のテーマを変更するとともに,1年間のサバティカル期間を利用して,拠点を東京に移し,一橋大学経済研究所非常勤研究員として客員研究室や附属図書館などを利用することができたので,都内における史料館・文書館などの施設利用に制約があったものの,文献収集には恵まれた時間を過ごすことができた。 また,こうした近世・近代の土地市場・不動産経営に対して,マスコミによる世間的な関心を寄せられるようになり,日本経済新聞の堀大介記者からは「住宅ローンの起源」というテーマで2021年12月に取材の依頼を受けた。この模様は,2022年4月4日付の『日本経済新聞』夕刊に,「なるほど!ルーツ調査隊 住宅ローン,天下太平の世に誕生」という記事に紹介されている。 このように,未知の研究を開拓するとともに,その成果を一般大衆に還元し,関心や興味,その重要性を認識してもらうという点では,この科学研究費によって,十分な成果を得られたのではないかと,自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,2021年度中にほぼ全ての研究を終え,また研究費に関しても,同年度中に若干の旅費相当分を除いて,ほぼ使用している段階にある。補助事業の期間延長を申請・承認されている段階にあるが,この旅費相当分を,今後の史料収集費に充てることで,その目的は達成できるといえる。したがって,2022年度から新たに交付が内定された研究である「近代都市東京における土地賃貸借市場の構造分析 ―麹町区内幸町のケーススタディ―」(課題番号:22K01609)の事業と並行させる形で,研究を遂行している予定である。 具体的な事例研究としては,2021年度末から,この内幸町地所をはじめとして,弁護士事務所が東京市内の特定箇所に集積している事実を把握している。こうした弁護士事務所を中心に,当時のサービス産業(弁理士や司法書士,宅地建物取引主任者に相当する事業者)の立地論・集積パターンの分析を実施している最中にある。この成果は,新年度の4月23日に社会経済史学会九州部会にて,また5月21日には第65回歴史地理学会自由論題で,「明治期東京市内における弁護士事務所の立地状況」というタイトルで報告することになっている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策の施設休館・利用制限措置のために,収集ができていない史料が残存している。(具体的には,東京都公文書館,東京都立中央図書館,三井文庫。)以上の図書館・史料館を訪問するための旅費として,次年度に使用する計画である。
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Research Products
(5 results)