2020 Fiscal Year Research-status Report
男子および女子ホワイトカラーの内部労働市場の形成―海運会社のパネル個票分析
Project/Area Number |
19K01787
|
Research Institution | Takachiho University |
Principal Investigator |
大島 久幸 高千穂大学, 経営学部, 教授 (40327995)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中林 真幸 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60302676)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ホワイトカラー / 内部労働市場 / 賃金動態 / 昇進 / 経済史 / 女性労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
内部労働市場をめぐる議論は、日本とアメリカとを問わず、理論的な分析が進んできた一方、内部データに基づく実証分析が乏しく、特に内部労働市場の形成を分析するにあたり必須であるはずの長期データを用いた実証研究は手薄である。こうした研究上の課題を克服するため研究代表者の大島と研究分担者の中林は2011年より戦前を代表する商社の特別職員録のデータを用いた共同研究を組織してきた。そこでは、同社の職員に関する給与、職名、役名、出身校、卒業年等に関する92,000件におよぶデータをパネル化した経験を持つ。本研究ではその知見とノウハウを生かして、1910年代から1960年代という長期のホワイトカラーのパネルデータを構築する。具体的には本研究で、新たに戦後に主要な海運会社の陸上職員(船員を除く)の「特別職員録」の約10,000件のデータをパネル化する。特別職員録には「部署」「役名」「氏名」「生年月日」「入社年」「学歴(卒業年月を含む)」「本給(年令給と能力給に区分)」「勤務手当」「資格手当」の各データが記載されており、本研究組織が初めて用いるデータである。同データの元となる組織は、先にデータ化した大手商社の内部組織にその系譜を持つ。その結果、1910年代から1960年代という長期の個票分析を行うことが可能となり、わが国における内部労働市場の起源とその特徴を析出することができる。また、新たにデータ化する個票には女性労働者に関する情報も含まれており、戦後にかけて事務系労働力として編入された女性一般職も含めた戦後労働力編成の全体像を構築する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新たに戦後の主要な海運会社の陸上職員(船員を除く)について、「特別職員録」をもとに約10,000件のデータをパネル化する。特別職員録には「部署」「役名」「氏名」「生年月日」「入社年」「学歴(卒業年月を含む)」「本給(年令給と能力給に区分)」「勤務手当」「資格手当」の各データが記載されており、本研究組織が初めて用いるデータである。本研究組織では基盤(B)研究の成果として、同社の前身となる部署の陸上職員に関する賃金、学歴、入社年などの約2,300件のデータ(1916年から1941年)について、「特別職員録」を元にすでにパネルデータを構築済みであり、新規入力データと接合することで1910年代から60年代という長期の個票分析が可能となる。本研究によって、実証の深さや対象時期の長さの点で国際的にも例を見ないデータを構築できる。また、同「特別職員録」は全女子職員の賃金、学歴、生年月日などのデータについても同様の項目で記載されており、従来にない新たな知見が獲得できる。研究に当たっては、まず、新たに入力する戦後の約10,000件のデータの入力作業を終えた後、ID化の作業に着手する予定である。 研究二年度の作業では、昨年度に引き続き戦後海運会社の陸上職員のデータについて、入力作業を進めるとともに既入力の戦前データについて、データ接合のための調整作業を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
すでに本研究組織で入力を完了させた戦前期「特別職員録」に記載される海運部署の職員(船員を除く)に関する「年齢」「入社年」「出身校(卒業年を含む)」「職種」「職階」「給与」「生年」などのデータと新たに入力する戦後海運会社の陸上職員の「特別職員録」の連続性をもつ上記項目データを接合したパネルデータを構築する。データは1916年から1963年までであり、当該企業で学歴と賃金の包括的なデータがとられ始める時期を始期とし、海運再建二法が施行され、当該企業が合併される前年を終期とする。ただし戦時統制が深刻になるなかで商社内部組織が独立した1942年から、敗戦後全面的な民営還元が実施される以前の1949年までのデータを除いている。これらデータを接合することによって、中林(2013)の検証結果と比較可能なデータを構築し、ホワイトカラー層も含めた封鎖 的な「日本的」雇用関係の定着時期に関する検証を行う。また、新規入力データでは、女子労働者に関する「生年」「入社年月日」「部署と役名」「学歴(卒業年を含む)」「給与(年令給と職能給、職務手当、資格手当)」が含まれる。基幹労働力である男子職員と女子職員を合わせた企業内労働力全体像の内部労働市場に関する理論的枠組みを構築できる。近年、研究が急速に進む事務系女子労働者に関しては、戦時期に労働力不足に対応して急速にその地位を向上させたが、戦後、大幅に後退したとの分析結果が示されている。しかし戦後、女子の事務系労働者としての導入は依然として続くのであり、それら女性労働力の高度成長期にかけての内部労働市場における相対的地位を検証する作業が不可欠であるといえる。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍で旅費使用分が使われなかったため。
|