2019 Fiscal Year Research-status Report
The loans of the City of London to the government 1660-1694
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19K01792
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中野 忠 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 名誉教授 (90090208)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ロンドン市 / 自治体財政 / 政府財政 / 貸付 / 利子 / 王政復古 / 名誉革命 / 金融革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.資料調査:初年度の中心的な作業は、本研究遂行のために不可欠な史料を包括的に調査し、撮影して、史料環境を十分整えることである。2019年7月23日から9月11日まで、ロンドンに滞在し、おもにLondon Metropolitan Archives(LMA)を中心に、史料の調査およびカメラ撮影を行った。COL/CHD/LA/02(Assessment and Loan Accounts)として一括保存されている史料が主な調査対象である。王政復古期直後から17世紀末までのロンドン市のローンに関連した、最も重要なおよそ200点の史料が収録されている。この史料の調査・撮影はすでに2年前から始めていたが、本年はこれを継続し、ほぼ完了した。あわせて、ロンドン市会計簿City’s Cashなどの、ロンドン市財政に関連する他の史料の調査と撮影も並行して行った。 2.史料の転写・入力、解析:年度後半は持ち帰った史料の解読、打ち込み(主にExcelを利用)、分析を行った。この作業を円滑に進めるために、撮影した史料をA3に拡大・印刷できるプリンターを購入した。 3.論文作成:当初の予定にはなかったが、本年は以前から準備していた、17世紀前半から王政復古期直前までのロンドン市の財政をめぐる諸問題に関する論文を1本発表した。16世紀以降、ロンドン市の財政は急速に規模を拡大する一方で、債務の累積など財政運営上の問題を生み出した。共和制の時代には、役職売買や役職者給与の見直しなどを中心とした財政改革が一定の成果をあげたが、そうした改革は伝統的な都市統治のシステムと矛盾するものであり、一時的な成功に終わったことを論じた。この論文は、本研究の成果をより長期的な視野から位置付けるために必要な基礎作業の一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.史料の解読、データの打ち込み:本研究の最も基本的作業は、COL/CHD/LA/02の解読、転写、データベース化である。初年度にこの史料の調査と撮影はほぼ完了したので、これをもとにこの史料に記載された諸項目の打ち込みを終え、データの包括的分析に取り組むことが本年の課題である。論文作成に時間をとられたこともあって、この作業の進展は予定よりもやや遅れている。 王政復古期以後の国王のローンは、特定の課税(人頭税、炉税など)を担保に、予め設定された利子のもとに行われた。当該史料には、依拠する課税の名称、ローンの分担者、分担方法、個人の分担金額、利子の支払い、元本の返済とその時期などが記録されており、それらのデータをすべてExcelに打ち込んでいる。アルバイトにも頼りながら、今年度中にデータの打ち込みは完了する予定である。 2.現地での史料調査: 夏季に渡英し、LMAとNational Archives(NA)を中心に調査する予定だったが、本年度は海外渡航が難しく、中止とする可能性が高い。そのぶんだけ、データベース化のために努力を集中したい。 3.中間報告の作成と関連文献の整理:これまでのこの史料の分析から明らかになった点もある。一つは、名誉革命以前の王国財政の恣意性という一般的評価とは異なって、国王ローンはおおむね確実に履行されたと思われることである。それはローンの形態が、強制から任意方式へと変化した、という事実とも重なる。こうした転換は、貸金が確実に利子を伴って返済されるという事実と信頼感があるからこそ実現できた。この過程で、ロンドン市の財務室と収入役は決定的に重要な役割を果たした。しかし他方で、王室財政側の制度改革の効果も小さくなかった。これらの点を中心に、政府側の刊行史料も参照しながら、これまでの研究成果の中間報告として、学会で報告するか論文を作成することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.データ分析と成果:政府ローンに対する貸主の特性、ローンの調達方法、利子支払い・元金返済の手続きやスケジュール、ロンドン市財務室の関与などについてこれまで打ち込んだデータを、相互参照可能なより使いやすいデータべースに再構築する。これをもとに、王政復古期以後のロンドンと政府ローンに関する総合的で数量的な分析を行い、政府(王室)へのロンドンの貸付が、ロンドン市、王権、ロンドン市民にとってどのような意義をもっていたか、それは王政復古の初期からイングランド銀行設立(1694年)までの、いわゆる「金融革命」に先立つ時期に、どのように変化したかを明らかにする。 2.データの比較分析:本研究が予想する結論の一つは、王室(政府)ローンがしだいに貸主にとって資金運用の一手段あるいは一種の「投資」ともみなされるようになったことである。これを検証するために、貸主に関するデータを、他の投資に関連すると思われるデータ、例えば孤児裁判所やロンドン市金庫の預金者、イングランド銀行や貿易会者の株主などに関するデータと可能な限り比較し、政府ローンの提供者が、どの程度、どの範囲でこの時期の投資家と重なるかを検証してみる。 3.史料の調査と確認:これまで利用してきた史料の再確認(撮影漏れ部分などのチェック)、NAでの最低限必要な史料調査のため、数週間程度、ロンドンに滞在する。 4. 最終的成果のその公表:データ分析で得た結果をもとに、当時の一般的経済的状況や政治的背景をも考慮しながら、この時期のロンドン市と政府ローンの歴史的意義について検討する論文を用意し、年度内に国内の学会誌に投稿する。また本研究の成果を、中世や近世のロンドン市と王室の財政的関係という、より長期の視点から整理する試みを続ける。その成果は、現在並行して準備を進めているロンドンの財政史に関する著書の一部として刊行する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたデータ打ち込み用の謝金を一切使用できなかったために、差額が生じた。次年度ではアルバイトの利用や専門家からの知識提供を予定しているので、そのためにこの差額を利用する。
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