2021 Fiscal Year Research-status Report
The loans of the City of London to the government 1660-1694
Project/Area Number |
19K01792
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中野 忠 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 名誉教授 (90090208)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロンドン市 / 自治体財政 / 対政府貸付 / 王政復古期 / 名誉革命 / 利子 / 税収 / ロンドン市文書館 |
Outline of Annual Research Achievements |
資料調査:本研究を遂行するための基本的資料は、ロンドン首都文書館(LMA)に所蔵されている査定およびローン関連会計記録(COL/CHD/LA/02)である。200点を上回るこの資料の最重要部分は数年にわたる調査で基本的に撮影を完了している。しかしこれらの記録は不整合で断片的なものも少なくない。作業を進めるうち、撮影漏れや判読不明な箇所、脱落部分もあることが判明した。渡英し原資料にあたってこれら欠損部分をチェックし、撮影し、さらに同館所蔵の財政関連史料などを調査する予定だった。しかしコロナの影響下で渡英できなかった。そこでこれまでの作業を継続する一方で、計画の一部を変更し、追加した。 継続作業:本研究の基礎史料はすべてマニュスクリプトであり、なかには判読のむずかしい部分も少数ながらある。本年度は前年度までの作業を引き継いで、撮影を終えている史料を解読し、借入目的、担保となる税収、徴収方法、貸付額、貸主、利子支払い、元金償還などについて年度ごとにExcelに入力した。さらにこれらをまとめ、それ以外の財政関連データをリンクできるようなデータベース(Loan Table)を作成する作業を続けた。 追加作業:当初の予定以上に刊行史料や二次文献を調査し、本研究の基盤や背景となる知識を充実させることができた。例えば、1)大陸、とりわけ低地地方の都市における財政、公債や公共サービスに関する研究。この分野で最も研究の進んでいる低地地方の事例は、本研究にとって重要な比較の素材を提供する。2)ロンドン市の対王室ローンを中世まで遡って検討し、王政復古期の貸付を長期的な視点から展望する。3)王政復古期のロンドン市の財政問題、特に1666年の大火とそれに対する都市の財政的対応の解明。 これらは本研究をロンドン財政史のより大きな枠組みのなかで位置づける助けとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.データの整理:本研究の基礎となるローン資料のうち、写真撮影済みのものについてはほぼデータ処理を済ませることができた。しかし渡英し現地に赴き調査を通じて欠落部分を補う作業ができなかったため、データの整理が予定よりかなり遅れた。 2.成果の現状:データ整理の完了した後に最終的な結論を出すことになるが、背景となる諸状況やロンドン市自治体財政に関する研究調査を予定以上に進めることができた。例えば次の点である。1)40,50年代、国家財政は消費税の導入、政府経常歳入の確定と下院による統制などの改革が行われ、王政復古後もこれは引き継がれた。2)王政は財政的に窮乏しており、頻繁にローンに依存した。ロンドンは最も重要な貸し手だった。3)その間にロンドン市のローンを扱う財務室でも国家の財政運営でも改革がなされた。そのため王室ローンの返済や利子の支払いは全体として確実に遂行されるようになった。そのため貸主の範囲も広がり、利子確保が主要な動機となった。4)王室のローンへの依存は1680年代には停止した。その原因にはトーリ反動と呼ばれる政治的状況の変化、海外貿易の好調などと並んで、ロンドン市財務室が扱う孤児財産のデフォルトがあった。5)名誉革命直後の新体制は緊急事態に対応するために、1964年にイングランド銀行が設立されるまでロンドン市からの借入に依存した。返済のための担保として、議会の制定する各種の課税が当てられた。6)ロンドン市の財政は1694年の孤児法によって、再建の途に就いた。 これらの事実は、王政復古期から名誉革命直後の王室財政とロンドン市財政の関係を具体的に解明するための基本的情報となる
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Strategy for Future Research Activity |
データベースの完成と最終分析:本研究プロジェクトの開始時から、ロンドン市のローン関連史料を用いて、ローンが設定された時期、その総額や担保の性質、貸主の性格、代理人の有無、元金の返済と利子の支払いの額と時期などに関するデータベースを継続的に作成してきた。最終年度はこれを完成し、租税台帳などの関連データをリンクさせながら最終的分析を行う。 本研究の結論の一つは、王室ローンが中世以来の半強制的な課税方式から、任意方式へと借入金の徴募方法が変化したことである。もう一つは、この変化に対応して、ローンの分担は貸し手にとって利子の取得を目的とした一種の投資と見られるようになったことである。その背景には、一方で、ローンを処理する中央の機関、財務府の手続きが改革されたこと、他方で、ローンを集め財務府に送り、財務府から貸主への利子の支払い、元金の償還を引き受けるロンドン市財務室の役割が確立したことにあった。さらにこれらの結論から、王室ローンの実質的意義、民間の金融市場の展開との関連、さらに「名誉革命」をイギリス経済発展の転機とする制度学派の通説について、連続性の視点から再検討を加える。 成果の公表:史料について最終的チェックを加えた後、これらの結論とその意義について論文をまとめ、『社会経済史学』になどの学術誌に投稿する予定で、そのための準備も進めている。また本研究で作成したデータベースは、プロジェクト終了後、ネットを通じて公開する予定である。さらに、本研究と並行して、中世から近世までのロンドンの財政と財務室について、統治機構や市民権制度などにも配慮した都市史研究を重ねてきた。これについても出版の準備を進めている。二つの研究は密接に関連しており、ローン(政府公債)に関する本研究をより広く長期的な観点から位置づけることが可能となろう。
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Causes of Carryover |
渡英して史料を調査することを予定していたが、コロナの影響により不可能となった。そのために予定していた支出を新年度の予算に回す。
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