2019 Fiscal Year Research-status Report
「垂直統合志向」概念を用いたフランチャイズ研究:人的資源に着目したプロセス分析
Project/Area Number |
19K01809
|
Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
小本 恵照 駒澤大学, 経営学部, 教授 (50554052)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | フランチャイズ / 垂直統合 / 成長 / 企業家 / イノベーション / 人的資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランチャイズの利用が可能にもかかわらず、企業が垂直統合度のより高い直営を志向することを解明するには、(1)垂直統合の再検討、(2)垂直統合を促す要因の解明が不可欠である。この認識を踏まえ、2019年度は、(1)文献調査や企業代表者へのインタビューなどをもとにした概念的研究、(2)「垂直統合志向」概念を用いた実証研究を行った。 1.概念的研究 企業家がビジネスをデザインするという視点から、垂直統合に関係する文献の検討と事例研究を行った。その結果、「垂直統合志向」は、垂直統合の違いに伴い変動する(1)リスク、(2)組織能力、(3)印象管理、という要素を企業家がいかに評価し行動するかという次元によって構成されるという概念を構築した。 2.実証的研究 成長企業を対象に、「垂直的志向」概念とフランチャイズ利用とを関連づける中で分析を加えた。より具体的には、成長志向や人的資源不足がフランチャイズ利用に影響を与え、垂直統合志向が調整要因となるという内容を行った。なお、イノベーション活動は成長志向などから影響を受けると同時に、フランチャイズ利用を促すという媒介変数になると想定した。具体的には、東京商工リサーチのデータベースで直近年度の売上高が前年に比べ20%以上増加した、従業員数が10人以上の企業1,500社の代表者に対して調査票を送付した。なお、対象とする業種は実店舗での販売が多い、小売業、飲食業、個人向けサービス業とした。198社から回答を受け取った(回収率は13.2%)。 分析結果をみると、まず、「垂直統合志向」概念は、「印象管理」とその他の2つ要素は内容が異なる構成要素となることが明らかとなった。次に、垂直統合志向は、成長志向などとともにイノベーションに対してプラスの影響を与えるものの、フランチャイズ利用に関しては有意なマイナスの影響を与えていないことが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の研究が目標を達成した点としては次のような点を指摘することができる。まず、文献調査などをもとに「垂直統合志向」概念の再検討を行い概念の中身を明確化できた点が挙げられる。次に、「垂直統合志向」概念と人的資源などの要因からなる分析モデルを構築し、成長企業の代表者にアンケートを実施し、一定の分析を行うに足る回収を得たことである。アンケートの結果では、垂直統合志向という概念の構成要素および垂直統合志向と企業活動の関連について一定の知見を得ることができた。第3点として、概念的研究を遂行する中で企業成長を検討した結果を、高成長企業に関する論文として発表することができた点が挙げられる。 しかし、次のような点において当初予定していた目標を達成することができなかった。まず、最大の目標である垂直統合志向がフランチャイズ利用にマイナスの影響を与えるという仮説を支持する結果が得られなかったことが挙げられる。次に、アンケートの回収に含まれるフランチャイズ利用企業が予想よりも少なかったことが挙げられる。2019年度という単年度の分析については十分な回収数であったが、2020年度の研究と接続を考えると十分な回収数とならなかった。したがって、当初の計画では回答をいただいた企業を追跡調査する予定であったが、2019年度の実施結果ではこの方針を軌道修正する必要がある。第3点として、事例研究は、アンケート回収企業に対して実施する予定であったが、回収アンケートの分析と回答者に返送する分析レポートの作成に時間を要し、実施することができなかったことが挙げられる。また、過程追跡の分析については、研究手法の研究にとどまり実施に至らなかった。 以上のような、目標の達成状況を総合的に判断すると、一定の成果は得たものの、主たる研究目的の達成が遅れたため「やや遅れている」という区分が妥当であると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究については、(1)2019年度実施のアンケート調査の回収数が少なかったこと、(2)上半期については新型コロナウイルスの影響から企業への取材が難しくなっていることを踏まえ、概念的・理論的研究に重点を置き、実証的研究については実施方法や内容を見直して研究を遂行する。 1.概念的・理論的研究 垂直統合志向という概念は、2019年度の研究から多次元から構成されることが判明した。しかし、リスクと組織能力の要素は十分に弁別できていないことと、実証分析で用いる尺度の開発には不十分な点が残っている。こうした点を踏まえ、2020年度は、人的資源の調達・育成とビジネスモデルを関連させる中で、「垂直統合志向」概念の精緻化を目指す。これは、フランチャイズでの垂直統合の違いは人的資源管理に顕著に表れるからである。なお、垂直統合志向の形成では企業家が重要な役割を果たすが、そこでは企業家のビジネスに対する「所有」という心理が影響すると考え、「所有」に焦点を当てた文献調査なども遂行する。これら概念的な検討を踏まえて、フランチャイズ利用に至るプロセスの精緻化を進め、フランチャイズの効果的な利用に関する理論を構築する。 2.実証的研究 当初の計画はフランチャイズの利用の有無を問わず継続調査するものだった。しかし、2019年度調査ではフランチャイズ利用企業の出現率が低かったことを踏まえ、2020年度は、フランチャイズ利用企業のみを対象とする分析に変更する。具体的には、インターネット掲載情報から約1000社のデータベースを構築し、郵送とインターネットによる調査を実施する。個々の企業によってフランチャイズの利用の程度が異なるため、この調査の枠組みでも垂直統合概念とフランチャイズ利用の関係を分析することが可能である。また、定性的分析については2019年度の調査企業を中心に継続して遂行する。
|
Causes of Carryover |
統計分析ソフトのバージョンアップを予定していたが、データ収集時期が遅くなったことなどから2020年度に購入を延期したため次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、2020年度に統計分析ソフトのバージョンアップのために使用する。
|