2021 Fiscal Year Research-status Report
TRIPS協定後の製薬産業のグローバル・バリューチェーン戦略ーインドを事例として
Project/Area Number |
19K01834
|
Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
上池 あつ子 中央学院大学, 商学部, 准教授 (40570578)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | グローバル・バリューチェーン / インド製薬産業 / 新型コロナウイルス感染症 / 原薬産業 / 競争優位の構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1にインドの企業財務データベースであるProwess IQのライセンスを更新し、主要製薬企業50社の財務データの整理と分析を進めた。特に、新型コロナウイルス感染症の流行がインド製薬企業の業績に与えた影響について重点的分析を行った。主要企業のほとんどが業績を向上させていることが明らかになった。その背景として、まずインドからの医薬品輸出、特に新型コロナウイルス感染症に有効であるとされた医薬品の輸出の急増があること、そして在庫の解消が大きく進んだことを指摘できる。中国からの原材料の供給不安に加え、原材料価格の上昇が企業業績にマイナスの影響を与えるものと考えられたが、売上高、輸出の増加はそれを大きく上回り、影響を最小限にとどめていることが明らかになった。 第2にインド製薬企業の成長のボトルネックとして、中国への過度な原薬・中間体の輸入依存、特に発酵技術を使用する抗生物質原薬および中間体の輸入依存とインドの競争優位に関する論文を執筆し、福岡大学商学論叢で発表した。本論文では、インドの発酵技術の未発達の原因を、これまでのインドの医薬品政策を紐解くことで明らかにした。インドの原薬産業の競争優位を再構築するために、本論文では発酵技術獲得の盤石にするために、発酵技術先進国からの技術移転の必要性を指摘した。インドと同様の課題を抱える日本からの発酵技術移転により、日印両国の課題解決を図ると同時に、世界規模での競争優位を確立することが可能であることを明らかにした。原薬産業の競争優位を高めることで、グローバル・バリューチェーン(GVC)におけるインドの支配力の強化を図ることが可能であることを示した。 第3に以上の研究成果を日印製薬産業セミナー(国際セミナー)などで報告している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題では、インドの主要ワクチンメーカーやバイオ医薬品企業での現地調査を行うことで、バイオ医薬品分野のGVCにおけるインド企業のポジションを明らかにする予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行でインドにおける現地調査が全く実施できておらず、進捗状況としては遅れている状況が続いている。また、インドでは、製薬産業の構造転換を図る様々な政策が進行中であり、世界市場におけるインド製薬産業の存在感はコロナ禍において増大し、GVCの再編が進んでいると考えられるが、再編の実態を現地調査によって明らかにできない状況にある。 その一方で、インドで操業する日系企業などへのヒアリングなどはオンラインを通じて実施することができており、日系企業のインドビジネスの実態変化についてはある程度フォローできているのは収穫であると考えている。また、Prowess IQの財務データの整理と分析も進展している。 インドの原薬産業の競争優位の再構築に関する論文を公開できたことは大きな成果であると考える。また、社会的貢献活動として、同論文の知見をベースとした国際セミナーでの報告や業界誌をふくめた様々な媒体で情報を公開できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
インドでは、製薬産業の競争優位を強化するための、様々な政策やスキームが実施されており、製薬産業の状況は新型コロナウイルス感染症流行以前から変化している。インドで展開さ入れている多様なスキームの成果を、まずはインド製薬企業の業績面などから分析する。Prowess IQやインド企業のIR資料などを引き続き整理分析した対応したい。 インドのGVC戦略をメタナショナル経営の側面から研究し、インド製薬企業の国際経営戦略の特徴を明らかにする。インドは自国の優位性をの乏しさを海外の先端知識や技術を積極的に取り入れて自社の競争優位の構築につなげている。新型コロナウイルス感染症の流行において、このメタナショナル経営戦略の成果が出ていると考えている。インドは不活化ワクチン、ベクターウイルスワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチンなど複数種類のワクチンの開発に成功した稀有な国であるが、これらの成果は海外からの高度な先端ナレッジを吸収する能力の高さによるところが大きい。ワクチン産業を中心として、インドのメタナショナル経営戦略の実像を明らかにし、論文として公表する予定である。 2022年度後半において、状況が許せば、インドにおける現地調査を実施し、研究を大きく進展させたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行で、予定していたインドでの現地調査が実施できなかったことにより、インド現地調査に振り分けていた予算を執行できなかった。インドへの渡航も可能になってきているため、2022年度の後半には複数回インドで現地調査を実施したいと考えている。インドで渡航できない場合は、オンラインでのヒアリング調査を実施するなどで対応したいと考えている。
|