2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01837
|
Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
高島 知佐子 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 准教授 (70590404)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 石州和紙 / 伝統工芸 / 石見神楽 / 小規模産地 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の伝統工芸は、観光等で着目される一方、縮小する国内市場、海外産廉価品との競争等、多くの課題を抱えている。特に、小規模産地・事業者の衰退は深刻である。以上を踏まえ、本研究は伝統工芸の商品価値、歴史・美術的価値、そして地域文化としての価値という三つの側面から、小規模産地の存続のあり方を明らかにしようとするものである。 このような目的のもと、2020年度は石州和紙産地の調査を重点的に進めた。具体的には事業者・組合、和紙会館、自治体へのヒアリング、文献調査を行った。石州和紙は現在5事業者のみで維持されており、存続が危ぶまれている。石州和紙の原材料である楮の入手も困難な状況で、生産者だけではなく生産方法のそのものの継承も課題になっている。また、石州和紙の生産はもともと農閑期の兼業であり、他の産地の和紙に比べて、その生産方法からも大量生産、需要に適さない点が多々ある可能性も判明してきた。 調査から、現在の石州和紙は、美術品や文化財補修、和紙を使用した芸術作品等といった一般的な和紙市場には属さない領域でのニーズに支えられていることがわかった。加えて、地域文化の発展にも大きな影響を及ぼしていることも明らかとなった。石州和紙の産地である島根県浜田市周辺は石見神楽でも有名な地域である。地域の重要な観光・文化資源である石見神楽の道具類は石州和紙の破れにくさを生かして開発されており、これが他にはない芸能のスタイルを生んでいる。つまり、石州和紙は一般的な和紙市場を対象とせず、美術と地域文化における価値を高め、小規模に産地を維持しようとしていることが見えてきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定では、複数回現地調査を行う予定であったが、感染症拡大により個別事業者へのヒアリング等が実施できなかった。また、石州和紙以外に、小規模産地で衰退しつつあった愛媛県の砥部焼(現在、県外からの作家が多く集まっている)など他の産地も調査予定であったが、実施することができなかった。昨年度までの研究は2020年度に学会発表予定であったが、学会が中止となり、研究の発信の点でも遅れが生じている。一方、文献等による調査は順調に進められており、現地調査以外の部分を先行して行うこととした。
|
Strategy for Future Research Activity |
感染状況を踏まえつつ、2021年度に産地の追加調査(三河内焼、石州和紙)、2020年度に調査を予定した愛媛県の砥部焼の調査を行う。また、三河内焼と石州和紙に関する論文等を学会誌、本の一部に掲載する予定である。学会等での発表は、翌年度に持ち越す見込みである。
|
Causes of Carryover |
2020年度の現地調査は、使途の制限のない大学の研究費を用いて実施したため、計画とは異なる支出となった(感染拡大で大学研究費の執行計画が変更になったため、これを石州和紙調査に充てた)。また、当初予定してた現地調査に行くことができなかったため旅費の執行がなかった。本年度の繰越分は2021年度の調査に使用する予定である。
|