2020 Fiscal Year Research-status Report
アイデンティティ形成とニッチトップ達成の結びつきのメカニズム解明
Project/Area Number |
19K01838
|
Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
石谷 康人 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 准教授 (70446904)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 起業家的アイデンティティ / 企業家的アイデンティティ / 組織アイデンティティ / 社会的自我論 / アイデンティティ資本 / 競争戦略 / ニッチトップ / 持続的競争優位 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高知県のニッチトップ型企業を対象として、アントレプレナー(起業家/企業家)や組織によるアイデンティティの形成が、企業の戦略の組織的遂行とそれがもたらす競争優位の確立に結びつくプロセスとメカニズムを詳細に示すものである。日本の中小企業やベンチャー企業にとって、独自の製品を用いて小さな市場で強固な地位を築くニッチトップ達成のための効果的な方法論を見出すことを目的とするものである。 本研究では、2020年度に、高知県に本社や生産拠点を有する不織布メーカーの金星製紙株式会社と釣具メーカーの株式会社ディーパース・ファクトリーの二社を対象としてインタビュー調査や聞き取り調査と一時および二次資料の収集を実施した。それぞれの企業において、収集したデータを用いて成功事例を定性的に記述するとともに、アントレプレナーや組織のアイデンティティの形成が戦略の組織的実践と市場での競争優位に結びつくメカニズムを導出した。また、G. H. Meadに端を発する社会的自我論を分析のフレームワークとして用いて、創業者のアイデンティティが組織の戦略とアイデンティティの創造に結びつく理論を構築した。 そして、2019~2020年度の研究結果の一部を、組織学会2020年度研究発表大会(横浜国立大学)、企業家研究フォーラム2020年度年次大会(大阪産業創造館)、日本企業経営学会第61回研究大会(アクトシティ浜松コングレスセンター)、関西ベンチャー学会第20回年次大会(オンライン開催)などで発表した。また、2019~2020年度の研究結果の一部が、『VENTURE REVIEW(日本ベンチャー学会誌)』36号、『経営教育研究(日本マネジメント学会機関誌)』23巻2号、『組織学会研究大会論文集』9巻1号、『企業経営研究(日本企業経営学会)』23号、『関西ベンチャー学会誌』13巻の5誌に査読付き論文として掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、2019年度から2021年度までの3年間で、高知県のニッチトップ企業7社の調査を実施し、定性的研究としての調査研究を実施する予定であった。それに対して2019年度は、株式会社技研製作所、YAMAKIN株式会社、兼松エンジニアリング株式会社、廣瀬製紙株式会社、株式会社垣内、株式会社太陽の6社に対してインタビュー調査と、一次資料および二次資料の収集を実施した。しかし、2020年度は、新型コロナウィルス感染症による社会的混乱から、企業を直接訪問して工場見学やインタビュー調査を実施することがなかなかできなかった。したがって、企業の調査については、これまでの調査に対する補強に加えて、株式会社金星製紙と株式会社ディーパース・ファクトリーの二社の新規調査にとどまった。そうであっても、2020年度終了の時点で8社を調査したことから、当初の計画をクリアしたということができる。 2020年度に企業調査を積極的に実施することができなかった分、これまでの調査結果を用いた口頭発表と論文執筆・投稿に注力した。その結果、4件の口頭発表と、9件の学術誌への論文投稿を実施したことから、これまでの調査結果や検討結果を研究成果へと結びつける活動を2019年度以上に実施したということができる。2020年度には、学術誌への掲載5件を果たしていることからも研究は概ね順調に進展しているということができよう。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、これまでに実施した調査の補強を行うとともに、昨年度に実施できなかった宇治電化学工業株式会社(研磨材のニッチトップメーカー)、株式会社ミロク製作所(猟銃のニッチトップメーカー)、ニッポン高度紙工業株式(アルミ電解コンデンサ用セパレータのニッチトップメーカー)の3社の調査を実施する予定である。しかし、2021年5月の時点でも新型コロナウイルス感染症が全国的に拡大しており、収束の目処が立っていないことから、先方から対面式の調査を断られる恐れがある。宇治電化学工業株式会社と株式会社ミロク製作所に関しては、これまでに先行調査を実施しており、工場見学も実施させていただいている。両社と2019年度に調査を実施した企業に対しては、遠隔会議システムを用いたリアルタイム型のインタビューを行うことで、インタビューデータを補強することができそうである。しかし、ニッポン高度紙工業株式会社は、これまでに調査が未着手であるため、遠隔会議システムを用いたインタビューだけでは、データを十分に収集できない恐れがある。同社は、当初の計画では調査対象ではなかったが、廣瀬製紙株式会社や金星製紙株式会社の調査も含め、高知県の地場産業であった和紙製造を機能紙の製造へと昇華させた貴重な事例である。それぞれの調査研究では、アントレプレナーや組織のアイデンティティと戦略の結びつきを探求するとともに、3社の比較を行うことでより深い研究を行うことが期待される。このため、対面式の調査が難しい場合であっても効果的にデータを収集できる調査方法を見出したい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症による社会的混乱から、企業を直接訪問して工場見学やインタビュー調査を実施することがなかなかできなかった。それにともない、調査データをあまり入手できず、その記録化が進まなかったため。
|
Research Products
(9 results)