2023 Fiscal Year Research-status Report
国内ハイテク中小企業群におけるイノベーション創出とその成功要因に関する研究
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19K01840
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
鈴木 勝博 桜美林大学, 大学院 国際学術研究科, 教授 (40293013)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中小企業 / イノベーション / 特許 / 長寿性 / コロナ |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、これまでの研究活動を通じて判明した 我が国の基盤産業を支える中小企業の「長寿性」や「コロナ禍の業況」に着目し、研究を行った。 具体的には、経産省のR&D支援事業(サポイン等)に採択された優秀なハイテク中小企業のうち、コロナ禍の影響が大きかった2020年度を含む前後5年程度の業績データが得られた1,950社について、「企業年齢」、「企業規模」、「特許出願」(2010~2019年)の分布を調べ、コロナ期の業況との関係性を探った。 一次集計では、(1) 若い企業群のほうが「コロナ禍の平均的なインパクト(売上低下率)」は小さい一方、長寿企業群では「売上を大きく損ねるリスク」が抑えられている傾向にある事、(2) 100名~300名程度の企業は、小規模企業や大規模企業と比較して、コロナによる負の影響が相対的に大きい事、(3) 特許出願活動は、企業規模の増大とともに活発化するが、コロナのインパクトとは直接的な関係が無い事、等が明らかとなった。このうち、(2) については、小規模企業(50名以下)や千名を超える大規模企業では、コロナ期の売上低下率は-5%未満だが、100名~300名の規模では-10%程度となっており、成長途上における中小企業のかじ取りの難しさが示唆される結果となった。これらの一次分析の結果は、大学紀要にて公表済みである。 また、上記に加え、企業レベルでの回帰分析も並行して実施した。その結果、出願活動がある程度活発な企業群では、「従業員一人当たり売上」に対し、(1) 「出願件数」や(2) 「大学院卒の社長の存在」が有意にプラスに寄与する事が判明した。「出願」と「従業員一人当たり売上」は、イノベーションを通じて関係性を有すると考えられるが、ダイレクトな寄与を確認した研究は非常に少ない。今後、登録特許や特許引用なども含めた分析をとりまとめ、海外誌に公表したい所存である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
基盤研究Cは、もともと3年ないしは4年で完結すべきカテゴリであるため、基本認識とし「遅延している」と考えている。その主たる理由としては、(1) コロナ禍による影響を踏まえたアンケート調査の設計に関する再三の見直し、ならびに、(2) 当初の問題意識(中小ハイテク企業におけるイノベーションのイネイブラ)とはまた異なる、新たな視点の獲得((i) 「ハイテク中小企業の長寿性」、(ii) 「イノベーティブな中小企業のレジリエンス」)が挙げられる。特に、(2)の第(i)項については、これまでのハイテク中小企業の研究の文脈ではほとんど指摘されてこなかった視点であるが、上記「概要」でも述べたように、これにもとづく分析から興味深い成果が得られつつある。 また、日本を代表する約2,000社のハイテク中小企業について、コロナ前後の業績データと特許データ(約6万件)を結合したデータベースを構築できたことにより、これらの企業群における「特許出願活動」と「業績(売上、従業員一人当たり売上)」とのダイレクトかつ有意な関係性も明確になりつつある。2024年度は、「登録特許」や「被引用数」等の知財データを補填するとともに、これらの企業群の長期的なイノベーションの成果を問うアンケートを実施し、有意義な論文にまとめていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、「登録特許件数」や「被引用件数」に関する知財データを追加的に整備し、6月中をめどに、中小企業の「業績データ」と結合する予定である。なお、特許の「出願件数」については、当該企業における「R&D活動」の代替指標だと考えられるが、「登録特許」については、「自社製品等に実際に活用している研究成果」についての代替指標だとみなせる。また「被引用数」は、特許の質に関係する。これらの追加データを用いることにより、2023年度の分析結果をさらに精緻化していく予定である。 さて、本来であれば、(1)R&D活動にもとづく各種の知財活動が、(2) やがてプロダクト・イノベーションやプロセス・イノベーションへと結実し、(3) これが企業の業況や効率性の向上に寄与する、というプロセスが推察される。2023年度の分析では、(1)と(3)の関係性をダイレクトに示すことができたが、2024年度は、(2) についてもアンケートデータを補填し、さらに分析の精度を高めたいと考えている。このアンケートについては、8月中に行いたい所存である。 なお、(2) の補填に先んじて、(1) と(3)の関係性の分析については、10月中をメドにとりまとめ、11月の国内学会発表、ならびに、海外誌への投稿に結び付けていきたい。また、(2) を追加した分析についても、2月中にはとりまとめたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2023年度は、当該予算を用いてアンケートを行う予定であったが、「進捗状況」で記したように知財と企業業績の結合データから、新しい視点での分析を進めることができたたため、次年度使用額が生じてしまっている。 「今後の研究の推進方策」でも示したように、2024年度は、知財と業績との間をつなぐ、具体的なイノベーションに関する補完的なアンケートを実施する予定である。当初予定していたOECDのマニュアルに準拠した内容(「直近3年間における各種イノベーション」)ではなく、より長期的な視野でイノベーションの実現状況を把握するアンケート(例1:社歴の中で重要性をもつイノベーション、例2:2010年以降の重要なイノベーション、等)としていく予定である。 次年度使用額の直接経費(約58.6万円)の使用計画としては、(a) 「その他」項目として51.8万円(① アンケートの郵送・回収費38.2万:郵送2,000社+回収 400社=2,400社×160円, ② 印刷費 13.6万円)、(b) 「人件費」6.8万円(分析補助: 時給2,000円×34時間)を予定している。
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Research Products
(2 results)