2021 Fiscal Year Research-status Report
ライフサイクル成熟転換期の戦略形成プロセスと多国籍企業:アメリカ自動車産業の事例
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19K01841
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三嶋 恒平 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 准教授 (90512765)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ自動車産業 / 国際経営 / FDI / スピルオーバー効果 / 通関統計 / アメリカ企業 / グローバル展開 / ライフサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2021年度の主たる研究実績は次の3点であった。第1に、理論的考察の深化である。本年度は現地調査が不可能だったため、国際経営論、FDI論における企業行動に関する研究を徹底的にサーベイし、その結果、本研究課題の理論的側面を強化することができた。特に本研究はサーベイ対象としてスピルオーバー効果に焦点を当てた。FDI論のスピルオーバー効果は享受する側が対価を支払うことなく無償で得られるものと先行研究は暗黙裡に想定した。しかし、実態は享受側は投資や学習を行っていることを本研究は指摘した。それゆえ、情報のスピルオーバー効果の創出側であるアメリカ自動車産業についても改めて考察が必要であることも明らかになった。 第2に、通関統計や生産販売に関するマクロデータからアメリカ自動車産業の外形的特質の整理を進めたことである。アメリカ自動車は学術のみならず報道でも取り上げられる一方、その実態解明は必ずしも進んでいない。通関統計は部品・材料の品目ごとの輸出入状況を明らかにし、特にアメリカはカナダ、メキシコといったNAFTA諸国とのつながりが深く、グローバル・バリューチェーンからアメリカ自動車産業の解明を進めた。貿易を巡る政治の動向が流動的であり、マクロデータによる実態解明は社会的にも求められているであろう。 第3に、アメリカ企業のグローバル展開先である中国やインドでの行動を解明した点である。コロナ禍以前に調査していた研究代表者の記録に基づき、アメリカ企業という点から再度検討を行い、アメリカ企業のグローバル展開における実態の一端を解明することができた。調達戦略や途上国の地場系企業との取引関係について、アメリカ企業には日本企業とは異なる特徴があった。そうしたアメリカ企業の特徴はアメリカ自動車産業に由来する経路依存的なものなのか、それとも合理性を有するものなのかを考察している段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年に発生したコロナ禍により、2021年度も海外渡航が不可能であった。そのため、本研究のメイン課題としたアメリカでの調査とそれを通じた実態解明がままならず、それは2021年度も同様の状況であった。こうしたことから、2021年度までの全体的な進捗状況として「やや遅れている」を選択せざるを得なかった。 しかし、本研究はアメリカで調査ができないことを埋め合わせ、さらには当初予定はしていなかったものの創発的な進化の機会と転換するために、コロナ禍においても可能なデータの収集と研究方法を模索した。こうした取り組みが上述の3つの研究業績につながったと考える。研究業績別に進捗状況への対応策を以下に述べる。 第1のFDI論や国際経営論におけるスピルオーバー効果について、研究開始当初はサーベイ対象として想定していなかった。しかし、本研究に関わる理論的な視角のサーベイを徹底したことで、新たな重要な研究課題として抽出できた。その結果、グローバルなアメリカ自動車産業の量的側面のみならず、質的重要性の再考につながった。 第2の研究業績である通関統計に基づくマクロデータからの特徴抽出は、HSコードにより部品、材料が細分化され、そのデータの収集と整理には膨大な時間を要した。本研究は2021年度に調査を行うことができなかったが、調査を想定して確保していた時間を、こうしたマクロデータの収集と整理に充てることができた。 第3の研究業績であるアメリカ企業がグローバル展開した海外での動向について、研究当初は必ずしも考察の対象としていなかった。しかし、研究代表者のこれまでの豊富な調査実績を再検討していくなかで、多くのアメリカ企業に関係する事例を発見することができた。そうした研究代表者の知的資産を本研究での考察に結び付けることができ、調査ができない現状に対応を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
主たる今後の研究の推進方策として4点をあげたい。第1に、情報のスピルオーバー効果を巡るアメリカ企業の実態解明とそれに基づく理論化である。上述のとおり、先行研究は必ずしも実態に即したスピルオーバー効果の概念を提示してこなかったため、それを本研究が補う意義は大きい。また、情報のスピルオーバー効果について、新興国におけるアメリカ企業の動向を考察することは、アメリカ自動車産業の進化の形態の考察に他ならない。そのため、アメリカ自動車産業の実態解明とライフサイクルを解明する本研究目的に合致する。 第2に、通関統計に基づいたマクロデータの整理を論文としてまとめていくことである。こうしたデータ整理はアメリカ自動車産業のGVCの解明につながる。コロナ禍により調査が思うようにできない場合であっても、データはすでに収集しているため、実行可能性が高い。 第3に、アメリカ企業のインドや中国での行動を巡る考察について論文としてまとめていくことである。こうした実態についても既に調査は行っているため、コロナ禍であっても実行可能性は高い。 第4に、可能であればアメリカでの現地調査を行い、実態解明を行うことである。本研究は実態解明そのものを目的とし、そこから理論化を目指していた。しかし、コロナ禍を受け、本研究は事例研究の位置づけを仮説探索的なものから、理論の妥当性を検証するためのもの、と転換した。上記3点の研究の推進方策によりアメリカ自動車産業の一つの側面が明らかになるはずであり、アメリカの実態調査に基づく事例研究はこれら3つの研究方策の示唆する点の妥当性を検討することにつながるだろう。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、当初予定していた海外調査および国内調査を実行できなかったため、次年度使用額が生じることとなった。使用計画は、次のとおりである。 今般のコロナ禍の状況を鑑みると海外調査が可能となりつつある。そこで、もし、海外渡航が可能であった場合、アメリカ調査での使用を予定したい。アメリカでの調査先はデトロイトとその近辺の自動車関連企業の集積地とする。 もし、海外調査が不可能であった場合、既存データセットによる研究対象へのアプローチを図ることにより、対応したい。そのためにはアメリカ自動車関連のデータ購入が必要となる。必要なデータは自動車関連情報を販売するMark Linesのサブスクリプションを通じて得られる。
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Research Products
(5 results)