2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01850
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
西尾 久美子 近畿大学, 経営学部, 教授 (90437450)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キャリア形成 / 技能育成 / 価値共創 / 事業システム / 京都花街 / 能楽 / 宝塚 / 学校化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、価値共創人材を育成している事例として、京都花街・宝塚歌劇・能楽を取り上げ調査研究を進め、以下の4点の研究実績をあげた。 ①価値共創人材に必要とされる技能の内容とその技能の育成指導の仕組みや獲得のプロセスについて、キャリア初期の能楽師同士が職種の壁を越えて連携し、自らの技能育成に役立つ場を設定することを明らかにした。地域の養成会で一緒に育成指導を受けた専門分野の異なる囃子方能楽師が連携し、小規模な技能発揮のための場を複数回実施し、専門性を磨く機会をもっていた。また、若手のシテ方能楽師と連携した公演を実施し、技能発揮について顧客へアンケートを実施するなど、顧客側との情報も収集して付加価値を高めようとしていることがわかった。 ②顧客との関係性の構築の実態とその関係性を通じて共有される情報や創出する価値について、キャリア初期の若手技能育成に関しては多様な発揮の場を持つ点が重要であることが、公演を主催する側に明確に認知されていることが、新型コロナウィルスの影響で中断していた京都花街の踊りの会開催に関してお茶屋や置屋の経営者が積極的に模索していたことから明かとなった。 ③①と②の関連性から価値共創人材を育成しながら事業を継続的に展開する事業システムについて、能楽師の事例では育成途中の若手の技能発揮の場の設定が、育成指導者側からの働きかけだけでなく、キャリア形成途上の本人たちの努力によって実現されること、京都花街では行政や業界団体とお茶屋や置屋の経営者側の連携によって実現されることが明らかになった。 ④日本的な価値共創人材については、本研究の成果をまとめ論文で発表した「学校化」というコンセプトをもとに、価値共創人材において創造性がどのように獲得されるのか探求を行った。この研究成果を中国の伝統演技の人材育成事例と比較し英語論文をまとめ、海外ジャーナルに投稿しアクセプトされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、新型コロナウィルスの影響のため、調査対象先の京都花街・能楽・宝塚歌劇・AKB48の多くの舞台や公演が中止・延期となり、価値共創人材の育成と事業システムの関連に関する参加観察調査を、当初の計画通りに進めることができなかった。また、インタビュー調査についても、対面での実施が難しくなり、当初の計画通りに進めることができなかった。 一方で、観客数を限定して開催された舞台や公演に関しては、継続的に調査を行ってきた関係性に基づき調査協力者の理解を得て、参加観察調査を行うことができた。特に能楽の公演では、調査協力者の配慮のもとで、令和3年度の後半から継続的に調査を実施することができた。 文献研究に関しては力を注ぎ、この点については予定通りに進捗することができた。また中国の伝統演劇の人材育成との比較研究に関しては、予定通りに進めることができた。 このように、令和3年度は当初予期していなかった新型コロナウィルスの感染拡大という影響があったため、当初の研究計画からやや遅れがちであるが、研究を進めることができた
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年~3年度に調査協力を得られた京都花街や宝塚歌劇の関係者や能楽師など複数の調査協力者に、令和4年度も継続的に調査を行う。特に京都花街と能楽に関しては、複数の花街や複数の流儀と良好な関係性を構築することができた。この新人から若手、中堅、ベテランまでキャリア形成の長期のプロセスに応じた調査協力者との関係性をもとに、今後の研究を推進する。 価値共創人材の育成に関して学校化という概念で提示した制度化された基礎技能教育が、その後のOJTにどのような関連性があるのか、また、また徒弟制度と学校化との関連についても、京都花街や能楽の事例をもとに研究を進める予定である。 日本的な価値共創人材の育成において、人材の本格的デビュー以前の徒弟制度における専門基礎技能教育と複数の育成指導者の関わり、またそれと並行して行われる専門職組織による学校的な育成制度、さらにそれら複数の育成制度とデビュー後の技能育成のためのOJTとの関連、さらに、先輩の専門職や同期の専門職との連携等の専門職同士のネットワークにも配慮して、今後は研究成果をもとに比較検討を行う。また、技能発揮に関して継続的に行われる技能発表会という付加価値提供の場が、技能育成側・被育成者側と顧客側という、異なる立場からどのようにとらえられているのかについて、検討も行う。 価値共創につながる事業システムに関しては、技能育成とキャリア形成の変化を顧客がどのように楽しんでいるのか、楽しみ、育て上げる喜びを感じている宝塚歌劇で明らかになった顧客関係に基づく付加価値の創造が、京都花街や能楽でも見受けられ「日本型」とも形容される特色であることが令和元年~3年の研究から明らかになった。今後は、この人材育成と事業システムの関連性を、被育成者側と育成する側がどのように受け止めて、活用しているかについても、複数の事例について調査研究を進め比較検討を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、京都花街・宝塚歌劇・能楽・AKB48の公演や舞台の中止・延期が重なり、予定した調査を実施することが困難となり、そのため次年度の使用額が生じた。 また、同上の理由で研究成果を発表する国際学会の開催が延期となったり、開催が急遽web上の開催(Zoomミーティング)へと変更となったりした。そのため、研究成果を国際学会で報告するための渡航費用や滞在費用などの支出がなくなったため、次年度の使用額が生じた。 令和4年度は、海外学会での発表が内定しており、学会参加のための必要が発生する予定である。また、延期となった舞台や公演への参加観察調査も予定している。
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Research Products
(7 results)