2019 Fiscal Year Research-status Report
Comparative research on the labor dispute resolution system in the UK and Japan
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19K01855
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Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
島袋 隆志 沖縄大学, 法経学部, 准教授 (60733780)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水道事業 / 公務・公共的労働 / 民営化 / 再公営化 / 労働者の身分移動 / 雇用問題 / 労働紛争解決 / 労働法と公務員法 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス・パリ市、イギリス・ロンドンでの水道事業に従事する組織、労働者へのヒアリング調査を行った。 パリ調査では、①トランスナショナル研究所、岸本聡子研究員から「欧州の水道事情」を、②パリ市「水の館」(水道記念館)を見学、③パリ市水道公社「Eau de Paris」 国際担当者Eric氏、④フランス総同盟「CGT」責任者、Didier DUMONT氏、⑤フランス総同盟、水道事業労働組合員、Henri BOUSQUE氏、⑥フランス総同盟 消費者団体 代表者Claude CHAUVEAU氏、⑦パリ市議会議員、Jean-Noel AQUA氏から、また、ロンドン調査では①英労働党の新しい政策、トランスナショナル研究所、岸本聡子研究員、②UNITE労働組合 国際担当、Simon Dubbins氏、③「We Own It」(市民運動団体) 代表者、Cat Hobbs氏、④Anglian Water(水道会社)労働組合員、Robert Shepherd氏、⑤United Utilities(公益事業体)労働組合員、John Oldroyd氏、⑥Thames Water社イギー氏からレクチャーおよびヒアリングを行った。 これらの調査から、パリ市の水道事業では、公務から民営化、そして再公営化(第三セクター方式に似た方式)の道を辿る中で水道事業の運営課題として (1)水道料金と水質とサービスの向上、 (2)民主的な経営管理の向上、(3)地域連帯と国際連帯の向上、(4)エコロジーの向上の重要性に行きついたこと。また、ロンドン市の水道事業では、30年前に民間に完全売却してしまった水道の再国有化の政策が進んでおり、現在9つの「民営水道会社」を9つの「流域公共水道機構」に変えるための具体的な政策案として、「透明な水:公的所有の民主的で透明性のある現代的な水道ビジョン」が公表されていることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
労働紛争解決制度の企業行動に与える影響を検討するにあたり、初年度の調査としては、パリ、ロンドン両都市において水道事業が、公営から民営化、そして再公営化する中で、そこで働く労働者には労働環境や賃金・労働条件を始めとする大きな変化が生じ、こうした変化により雇用・労働紛争が少なからず生じるであろうと想定した。雇用・労働紛争には各国の状況に合わせ解決制度が整備され利用されており、そうした紛争解決制度と各国企業・組織との関係を見ることが本調査研究の目的である。 その手始めとして、フランス、イギリスにおける水道事業の公務から民営化、そして再公営化に焦点を当てヒアリング調査を行った。これは、そうした公務から民営化、そして再公営化という組織変化が、多数の公務・公共労働者の身分移動、賃金労働条件変化の背景としてあると想定するからである。 調査では、水道公社、労働組合、消費者団体、市議会議員等からヒアリングすることができ、とくにロンドンでは、欧州一と言われる浄水場施設を見学することができ水道事業そのものと、これを取り巻く関係者の現状を知ることができる有意義な調査であった。レクチャー・ヒアリングでは、フランス・ロンドンにとどまらず欧州全体の水道事情について理解を深めることができ、初年次の調査研究としては、おおむね順調に進展をしていると判断している。 こうしたパリ・ロンドン市の経験した公務労働の民営化、そして再公営化の流れの中で、従前には公務労働だったものが、民営化、そして再公営化に伴い身分が移動し、賃金・労働条件の変化が生じていたが、こうした状況は、改正水道法により水道事業の民営化が解禁されてしまった今後の日本でも大いに参考となる事例である。今後は、同時に労働者の身分移動に伴う賃金労働条件の変化や、そこから生じる労働紛争がどのように扱われているかに焦点をさらに絞って調査を継続していく。
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Strategy for Future Research Activity |
パリ・ロンドン市水道事業の経験した公務労働の民営化、そして再公営化の経緯は、現代日本における公務労働の民営化や、日本企業のいわゆる「日本的経営からの脱却」の流れに類似している点がある。すなわち、公務労働や日本的経営下での働き方に共通する長期雇用および年功賃金からの脱却の流れである。20年前には成果主義賃金導入により過度に個人業績を重視するようになってしまったこととその失敗のブーム。その後、チームワークの再評価として役割給導入のブーム等、日本企業の雇用慣行も模索を続けている。 そうした流れの中で、従前には公務労働だったものが、民営化、そして再公営化に伴い身分が移動し、賃金・労働条件の変化が生じていたが、こうした状況は、改正水道法により水道事業の民営化が解禁されてしまった今後の日本でも大いに参考となる事例である。 今後の研究推進として、こうした事例から、労働者の身分移動に伴う賃金労働条件の変化や、そこから生じる労働紛争が各国でどのように扱われているかに焦点をさらに絞って調査を継続し、法による規制と、その以前で紛争解決機関によるあっせん、調停、そして助言等により、企業や組織にどのように規制力が働いているか、そうした規制力の社会相場を企業・組織はどのように学んでいるのかを明らかにしていく。 研究課題として、フランス雇用裁判所、イギリスACAS等の専門的調査には、今回の調査に随行した専門通訳を介して、事前調査・調整を行い本調査に臨めるよう準備を整える。
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Causes of Carryover |
2019年11月のフランス・イギリス調査での人的ネットワークを生かして次調査につなげようと、2020年3月に再度フランス・イギリス調査を計画し、2年度目の調査費を前倒し申請し承認を受けていたが、新型コロナ感染拡大による影響を受け、その時期の海外渡航を見送った為、初年度に計上していた海外渡航費等の調査費の未着手分が生じた。 この未着手分を含め、2年度目には、初年度の海外調査を基にして主に海外調査、国内調査を予定し、それに係る交通・宿泊費、講師謝金、通訳・ガイド等の人件費等を中心とした調査費を計上している。
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