2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on the policies of the government and local governments utilizing the management strategy of the survival of local companies in the Setouchi
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19K01860
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Research Institution | Advanced Institute of Industrial Technology |
Principal Investigator |
三好 祐輔 東京都立産業技術大学院大学, 産業技術研究科, 教授 (80372598)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 資本コスト / ハードル・レート / SDGs / CSR / ESG投資 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ESG投資を呼び込むことを通して、企業がSDGs活動と本業をリンクさせて企業価値を高めることができるかどうかに着目した分析を進めた。経営者が短期的な経営目標をとる場合、SDGs活動は企業価値向上に寄与しないため、経営者は積極的に関与しないという側面がある。しかし、SDGsに取り組む(例えば、CSR活動を意識した経営戦略を取る)ことにより、ステークホルダーに対する企業イメージを上げることができるため、自社の取り組みを社会にアピールするできるという肯定的な側面もある。今年度は、短期的利益を追求せず、不確実性を伴う無形資産に対し経営者はなぜ企業投資活動を行うのか、川淵・三好・都築[2019]を参考に、実証分析を行った。こうした研究を実施することは、SDGsとCSRが両立できるものかに対する回答を提示する意味合いを持つ。本研究の分析の結果は以下のとおりである。ESG投資額が増えると資本コストが上昇する可能性がある。一方、資本コストを引き下げる要因、たとえば、R&D(研究開発費)、社会貢献活動への支出は、逆に資本コストを下げる効果を期待できる。こうした結果から、次のようなシナリオを想定することができる。企業の社会的責任を自覚し、社会貢献活動による支出を経営者が積極的に行うこと、そしてこうした企業の取り組みを社会が一定の評価を与えること、これらにより、資金提供者は企業の取り組みを企業の社会貢献として高く評価することになる。その結果、資本コストが下がったという解釈に繋がる。つまり、実物投資のように直接的に企業業績に影響を与えることは期待できないものの、企業の社会的責任を十分に果たしていると市場が判断したことにより、資本コスト(ハードル・レート)が下がり、企業価値が上昇するというメカニズムを明らかにすることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国連の持続可能な開発目標(SDGs)をテーマとするESG投資や企業の自発的な非財務報告の増加傾向にあるという背景のもと、企業の社会的責任に関する学術的な関心は非常に高い。しかし、SDGsを始めとする社会課題解決への貢献が市場経済に及ぼす影響についての関心はあるものの、こうした企業の社会的責任を意識した積極的な取り組みが長期的な企業価値向上に繋がるかどうかについての一定の結論は未だ出ていない。また、これまで企業が発信する情報は、財務諸表を中心とする定量的な情報に注目されていたが、近年では経営方針・経営戦略等に関する記述、すなわち定性的な情報に着目した研究が増加傾向にある。こうした研究の趨勢に沿って、本研究では財務情報と非財務情報をリンクさせたモデルを構築し、SDGsへの取り組みと企業価値との関係を明確にするため、実証分析を行う準備を進めてきた。具体的には、企業価値向上を実現するためには、資本コストを活用することが有効であるとの立場から、稼ぐ力であるROICではなく、ハードルレートであるWACCに注目して分析を進めてゆく。次年度は、製造業を中心に考察対象の標本を増やすことで、SDGsへの取り組みと企業価値との関係性について検証を進めてゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
SDGs達成への企業貢献に対する社会全体からの期待が高まる中、企業活動におけるSDGsを始めとする社会課題解決への貢献が市場経済に及ぼす影響について議論しておく必要がある。こうした社会貢献に対する積極的な取り組みが長期的な企業価値向上につながると言われているが、定性的分析と定量的分析により証明した研究はほとんどない。これまでの先行研究では、民間企業が行うSDGsにかかる環境活動はグリーンウオッシングではないこと、持続可能な開発の側面として、環境的要素、社会的公平性、経済的要素といった3要素以外に第4の要素としてテクノロジーを含めるべきとの提案はあるものの、未だSDGsへの取り組みが企業価値にもたらす効果について明確な結論は示されていない。そこで、東証一部上場企業を対象に、企業のSDGsへの投資行動がWACCに及ぼす影響について考察し分析することを引き続き試みる予定である。まず、有価証券報告書に記載されている財務情報だけでなく、統合報告書に基づく非財務情報を用いた分析を行う予定である。そして、経営者がSDGsに積極的に取り組むという姿勢を見せることにより、企業の経営戦略に共感してくれる資金提供者の数が増え、資本コストを引き下げるというメカニズムが働くことが期待できるならば、経営者は社会的要請を受けてSDGsの取り組みをすることの意義が十分にあることを示すことができる。本年度から来年度にかけて、上記の研究結果に関する論文発表を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響により、予定していた交通費が使用できなかった。また、研究活動自体も物理的な制限があり、2021年度は予算で計画していたものとは異なる形で、研究を実施した。これらにより、一部を2021年度で使用せず、2022年度の利用を予定することにした。
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