2021 Fiscal Year Research-status Report
コンプライアンスの制度疲労による「実効性」の喪失と行動倫理学の理論化
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19K01883
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
水村 典弘 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (50375581)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 行動倫理学の学説研究 / 製品表現の倫理 / 広告等表示の倫理 / アクションラーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第3年度は、不適切事案や炎上事案の分析・検討を通して、「なぜ人は意図せぬ不正を働くのか」について掘り下げて検討した。具体的には、(1)行動倫理学の系譜を学説研究の手法で論文化しただけでなく、(2)アクション・リサーチの手法で現場の抱える課題解決に資する活動に従事した。本年度中の主たる研究実績の概要は、以下のとおりである。
第1に、「不正な行動選択と行動倫理学」を学会誌に発表し、社会科学と自然科学の垣根を超えた学際融合領域として知られる行動倫理学の生成過程と方法論上の特徴を明らかにした。学問としての行動倫理学は、「集団の一員として行動する人間を不正な行動へと導くバイアスは何なのか」という重箱の隅をつつくような問いから生成した。心理学・認知科学と脳科学・神経科学の先端領域で得られた知見を取り込んで展開される行動倫理学が、学際融合的な研究であることを明らかにした。第2に、NDAを締結したT社(東証一部[現プライム]上場・その他製造)における「製品・広告等表現」の社内審査・チェック体制の制度設計・構築及び運用の各フェーズに関与した。同社部門担当者との協働で得られた知識や経験は、行動倫理学の研究成果の実務展開の可能性を拓くとともに、製品・広告等表現の倫理を担保するための仕組みをモデル化して水平展開する上で重要な意味を持つ。
研究の意義と重要性について:本年度中の研究は、行動倫理学という新たな学問領域の生成と発展の過程を明らかにしたことで、本研究の当初目的「行動倫理学の理論化」の中核となる。また、T社とのコラボレーションを経て、「製品・広告等表現の倫理」という新たな領域を開拓した。本年度に得られた研究の成果は、「製品・広告等表示をウェブや店頭で見た人の不快情動行動を喚起する無意識下の不快情動を抑止するためには、どのような組織対応が求められるのか」をモデル化する上で重要な意味を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
過年度に引き続き本年度も主として日本国外で発表された行動倫理学に関わる先端的な研究の成果のフォローアップに努めるとともに、学際融合的な行動倫理学の論点を理解する上で必要な心理学・認知科学や脳科学・神経科学の領域で得られた知見を網羅的に調査・分析した。
本研究の当初目的に掲げた「行動倫理学の理論化」については、行動倫理学の生成過程と方法論上の特徴を明らかにした論文を発表したことで、日本における経営倫理学(ビジネス倫理学)及び経営学の発展に寄与・貢献した。併せて、本研究の初年度に発表した「コンプライアンス研修の設計と実際:研修の死角と「やらされ感」を生む原因」(日本経営倫理学会誌、第27号、221-233頁)が、日本経営倫理学会に創設された学会賞「水谷雅一(論文)賞・優秀賞」を受賞した。このことから、本研究の全体が学会の求める期待・要求水準を満たしているともいえる。また、NDAを締結したT社の部門担当者との協働で得られた知識や経験を行動倫理学の領域にリンク・フィードバックすることで、本研究の更なる内容充実を図ることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度については、日本生産性本部の委嘱を受けて実施してきているコンプライアンス研修や現任の取締役・執行役員及び次世代経営幹部対象の研修の場で得てきた情報を分析・検討するとともに、同本部の協力を得て「コンプライアンス研修に抱く社員の感覚」を明らかにするためのアンケート調査に着手する予定である。併せて、「不適切な製品・広告等表現」に起因してネット炎上した国内外の事例を様々な角度から分析・検討して、製品デザインや広告等表示がSNSユーザーのネガティブな感情(違和感や不快感・怒りの情動)を喚起する連想のメカニズムを明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度中に予定していたアンケート調査がコロナの影響で実施できなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金については、本研究の内容充実に必要な調査、本研究の成果を広く社会に発信するため必要な経費、及び本研究の成果について社会と対話するために必要な経費に充てる予定である。
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