2019 Fiscal Year Research-status Report
Metabolism of Inter-Firm Transactions in Complex Large Network
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19K01884
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山野 泰子 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 助教 (90772674)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 取引ネットワーク / 企業の新陳代謝 / イノベーション・マネジメント / サプライチェーン分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
企業間取引は近年盛んに研究されており、日本の地域経済関連施策の立案・実行・検証の上でも重要な参照要素となっている。しかし、企業のミクロな取引変動をデータに基づいて解析した研究は、地域経済圏や産業の構造変化といったマクロないしメソレベルの研究に比べて少ない。そこで本研究では、企業レベルの新陳代謝が、地域経済圏や産業、企業のパフォーマンスに及ぼす影響の解析を目的とした。 令和元年度は、申請時までの研究で使用したデータの2倍の期間にあたる10年間分の東北地方の企業間取引データを用いて、先行研究で定義した新陳代謝度の再現性を検証・評価するとともに、企業パフォーマンスとの相関を解析した。その結果、長く存続する大企業は毎年一定の割合で取引先を交代していること、取引先をほとんど変えない大企業は存続年が短くなる傾向があるという、先行研究と同様の傾向が確認された。東日本大震災後のサプライチェーンの崩壊は企業間取引に大きな影響を及ぼしたことが知られているが、期間を拡張した上で同様の関係が見られたことは、取引先交代による新陳代謝が危機対応時の特異な現象ではなく、平素の企業活動においても不可欠な生存維持機構である可能性を示している。 さらに、取引ネットワーク上の企業の役割を調べるために、異質なコミュニティをつなぐ結節点(ノード)を検出する新しいネットワーク指標(PW)を開発した。この指標ではコミュニティ間の距離を考慮することにより、ノードの稀少性評価に成功している。コミュニティに多様性をもたらす企業をより高く評価するPW指標を用いれば、オープン化が進み、多様な知見や情報の融合が鍵を握るようになってきたイノベーション活動において、重要な役割を果たしている企業群の候補を抽出することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2007年から2016年までの10年間分の東北地方の企業間取引データを用いて、新陳代謝度の再現性を検証・評価するとともに、企業パフォーマンスとの相関を解析した。具体的には高次元データの因子分解技術である非負値テンソル因子分解を用いて、企業パフォーマンスに関連する5つの属性(存続率、成長率、取引数、新陳代謝度、消失取引数)を利用した分析を行い、複数の視点から要因を推定した。研究成果を技術経営分野でトップクラスの国際会議であるPICMET2019にて発表した。 また、コミュニティ構造に基づいてノード(結節点)の稀少性を評価するネットワーク指標(PW)を開発し、条件の異なる複数のネットワークを用いてその妥当性を検証した。研究成果を情報処理学会が主催する国内学会であるWebDB Forum 2019、およびネットワーク科学分野で主要な国際会議であるComplex Networks 2019で発表したほか、Scientific Reportsに投稿した(2020年5月採択)。 PW指標と新陳代謝度を企業間取引ネットワークの分析に活用し、PICMET2020に投稿した(新型コロナ感染症の影響で学会開催は2021年に延期)。
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Strategy for Future Research Activity |
令和二年度は、これまでに開発した新陳代謝度およびPW指標を企業間取引ネットワークのさらなる分析に活用し、個別企業のミクロな取引変動が企業間取引ネットワークの構造にどのような影響を及ぼすのかを分析する。また、企業や産業、地域クラスターといったレベル毎にネットワークの構造とダイナミズムの観点からどのような違いがあるかを分析し、ジャーナルへの投稿を行う。
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Causes of Carryover |
年度予算を超えない範囲で予算を使用したため、若干の次年度使用額が生じた。次年度は国際学会参加経費での使用を予定しており、無事開催されれば余剰は生じない見込みである。
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Remarks |
Scientific Reports誌に掲載された論文「Evaluating Nodes of Latent Mediators in Heterogeneous Communities」で提案している新しいネットワーク指標(PW)について、着想の経緯や政策科学・社会科学との関連を含めた意義を、著者がわかりやすい文章で解説しています。
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