2019 Fiscal Year Research-status Report
長寿ファミリー企業の革新とコミュニティーの地域間比較
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19K01903
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
辻田 素子 龍谷大学, 経済学部, 教授 (40350920)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊達 浩憲 龍谷大学, 経済学部, 教授 (30278501)
松岡 憲司 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (40141668)
神吉 正三 龍谷大学, 法学部, 教授 (50337284)
白須 正 龍谷大学, 政策学部, 教授 (60780088)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 長寿企業 / ファミリービジネス / 革新活動 / コミュニティー / 老舗 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度にあたる2019年度は、パイロット調査として、京都市内に立地する革新的な長寿ファミリービジネス(FB)の実態把握に努めた。 具体的には、京都市の「オスカー認定」企業を対象に調査研究に取り組んだ。オスカー認定は、京都市が2002年に始めた制度で、積極的な経営革新によって持続的成長が期待される中小企業を発掘・認定し、経営面を中心に支援を実施している。2019年末段階での認定企業は201社である。 2019年度は、オスカー認定企業を中心に10数社への聞き取り調査を行った。さらに、帝国データバンクの企業データベースに基づきオスカー認定企業の概要を分析、2019年時点で創業から100年以上を経過した企業45社を「老舗企業」とし、これらの企業群とそれ以外の非老舗企業142社を比較した。資本金、従業員数、売上高などの規模について、老舗企業の規模が非老舗企業より大きかった。また、同族による事業承継比率も老舗企業が高かった。 そのうえで、老舗企業と非老舗企業を対比しながら、彼らがいかにして革新的な取り組みを行ったのか、オスカー認定制度がそうした革新活動の実践や企業の存続・発展にどのような機能を果たしているのかを、長寿FB、長寿非FB、ベンチャー企業といった類型ごとに、個別事例を検討した。 革新的な事業プランを認定し、経営面を中心に包括的に支援するオスカー認定制度では、国や府などの諸施策も適宜活用しながら、個別企業の実情にあわせたオーダーメイドの支援がなされており、同制度に限定してその成果を抽出することは困難だが、廃業・倒産が懸念される長寿企業の起死回生から、ベンチャー企業の株式公開まで、事業の継続・発展に対する寄与度は決して小さくないと推察された。また、同制度は、地域コミュニティーの協働を促進するシステムとして機能していることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①初年度において、定性的および定量的調査研究に向けた環境をほぼ整備することができた。 ②超革新的長寿FBの研究に関しては、京都市の革新的な企業を支援する「オスカー認定制度」の事務局およびオスカー認定企業をメンバーとするオスカークラブと信頼関係を構築することができた。オスカー認定を受けた企業10数社へのヒアリングを通じて、その実態把握に努めた結果、同制度は、地域コミュニティーの協働を促進するシステムとして機能していることが浮き彫りになった。オスカー認定長寿FBの革新活動のケースを詳細に分析することで、超革新的な長寿FBの企業家活動や企業家的志向性、彼らがつながる人や組織との関係性などの実態が把握でき、長寿FBの革新活動が創出されるメカニズム分析につなげることができるとの確信を得た。 ③一橋大学経済学研究科の帝国データバンク企業・経済高度実証研究センターの客員研究員に辻田と松岡の2名が加わり、帝国データバンクの企業データを活用できる機会を得た。今後、オスカー認定企業の定量的分析、長寿FBと長寿非FB、長寿FBと非長寿FBなどの比較分析、さらに長寿FBの革新性に関する地域間比較分析に取り組める環境が整った。 ④FB、特に長寿FBに関する国内外の先行研究のレビューに取り組んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
①オスカー認定企業を対象とする研究を深化させる。オスカー認定企業と非認定企業、オスカー認定の長寿FBとオスカーに認定されていない長寿FBなどの比較研究にも取り組み、地域挙げての支援体制が老舗FBの革新活動に及ぼす効果をより詳細に分析する。ヒアリングにあたっては、インタビュー相手の個人的バイヤスを回避するために、できるだけ多数の関係者にインタビューを行い、データの信頼性を高める。オスカー認定企業に選ばれたことが、企業のパフォーマンス(企業の収益率、売上高、主業の変化)に寄与しているかどうか、また、同じオスカー認定企業でも、老舗と非老舗、FBと非FBで、パフォーマンスに違いがあるかどうかといった分析には、帝国データバンクの企業データを活用する。 ②老舗FBの中でも「生き残った企業(存続企業)」と「続かなかった企業(退出企業)」を区別して、その比較分析を行う。長寿企業といえども、廃業、倒産するところが少なくない。長寿企業の中で、どのようなタイプの企業が市場から退出しているのか、要因は何か、FBは長寿性にどのような形でプラスあるいはマイナスの機能を果たしているのかなどを分析する。長寿企業を対象に、存続企業と退出企業を比較分析することで、ファミリービジネスの強みや弱みをより詳細に議論できる可能性がある。帝国データバンクの倒産企業データを活用する。 ③新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴い経済活動の縮小が長寿FBに与えた影響についても検討する。長寿性やファミリー性がこうした危機的状況においていかなる面でどのような影響を及ぼしているのかを分析する。 ④老舗FBの地域特性の分析を始める。京都と東京、京都と金沢などで地域差があるのか、あるとすれば、なぜ差があるのかを、産業の中分類や小分類, 主業と従業が入れ替わったかどうかなどのパネルデータで解析する。帝国データバンクの企業データを活用する。
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Causes of Carryover |
2020年の2月、3月に企業へのヒアリング調査や研究会を予定していたが、新型コロナウイルスの拡大で、延期にせざを得ない状況になったため、研究費の一部を次年度に繰り越すことになった。
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