2021 Fiscal Year Research-status Report
説明責任を通じた正統性獲得行動の罠:現代における「鉄の檻」の解明
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19K01916
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
中西 善信 東洋大学, 経営学部, 准教授 (30755905)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 正統性 / 説明責任 / 公組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,組織が,正統性を獲得しようとして,かえって新たな問題を生じさせるような行動を取ってしまうに至るメカニズムの解明を目的とする。特に,「説明責任(アカウンタビリティ)」を果たすことを通じた正統性獲得に着目する。 令和2年度までに,国際学術誌に投稿した論文1本が掲載されるに至った。 令和3年度は,日本の行政機関のアカウンタビリティの実態解明に焦点を当てて研究を行った。このため,行政機関職員等に対する面接等を通じて収集したデータの分析を進めた。分析は修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA)によった。分析の結果明らかになった日本の行政におけるアカウンタビリティの課題は以下のとおりである。第1に,アカウンタビリティに伴う過剰負担である。大量の想定問答作成等,アカウンタビリティを果たすために相当のリソースが費されている。第2に,問責者による追及が,財政・成果の両アカウンタビリティ以上に手続きアカウンタビリティに偏っている。日本では,成果を上げることよりも適切な手続きを踏むことが重視されるのである。第3の課題として,アカウンタビリティへの要求強化に従い,アカウンタビリティを果たすことが困難な施策が回避され,「説明しやすい施策」が選択されやすくなる。特に,アカウンタビリティを果たせなかった場合の制裁を強く意識する場合には,制裁を恐れ説明しやすい施策をあらかじめ選択する傾向が一層強まる。第4に,少なくとも答責者の認知において,答責者よりも問責者が優位にあると認識されていた。 上記研究成果については学術論文としてとりまとめ,令和3年11月,公表したところである。また,当該成果も含め,令和4年度中の書籍刊行に向け,執筆を継続しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初研究計画との関連でいえば,新型コロナウィルス感染拡大防止の観点(所属機関における出張に関する制限等)から,インタビュー調査実施において大きな制約を受けることになった。特に,海外でのインタビューは延期が不可欠な状況であった。一部,オンラインインタビューも実施した。しかし,本研究テーマは内容が非常にセンシティブである。オンラインインタビューでは,インフォーマントとの間でのラポール形成や信頼獲得に限界がある。また,インフォーマントの考えの核心に迫るためにもやはり対面でのインタビューが不可欠である。 今後,海外出張を含め,より多くのインフォーマントに対するインタビューを,新型コロナウィルスに係る情勢が改善次第,早急に行う予定である。 以上のとおり,令和3年度はインタビュー件数が減少し,又,海外出張が延期され,その代わりにデータ分析・執筆に注力した。これらが,予算執行額が当初計画より少なくなった理由である。 一方で,論文1本を公開して本研究の成果の一部を公表できたこと,そして,令和4年度の書籍刊行に向けた編集作業を進めたこと,並びに,国際ジャーナルへの論文投稿(査読中)を行えたことは,今年度の大きな進捗であると考える。 また,今後,当初計画通りにインタビュー調査が進まない場合に備え,2次データを活用した「質的比較分析」(QCA: qualitative comparative analysis)の適用可能性について検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,前年度に引き続き,説明責任を果たすことを通じた正統性獲得行動に関する諸問題の解明を継続する。特に,現在延期となっている海外等でのインタビュー調査を再開したい。 また,出張が困難な状況が続く場合に備え,関係者インタビューに加え,様々な二次データ(委員会議事録,新聞記事等,会計検査報告書,公正取引委員会審決等)の収集を通じた調査の比重を高める。その上で,分析を通じて抽出された「アカウンタビリティを通じた正統性獲得行動」や「アカウンタビリティ責任圧力」,並びにこれらの成果としての正統性獲得・名声(reputation)向上等,組織間の相違を生じさせる要因を,各組織間の比較を通じて抽出する。 そのため,「質的比較分析」(QCA: qualitative comparative analysis)を用いた分析の方法の習熟に努める。すなわち,QCAを通じて,正統性獲得・名声向上のための十分条件及び必要条件を抽出する。 さらに,過年度に投稿した論文受理に向け,査読コメントに対応することとする。
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Causes of Carryover |
繰越金が生じた最大の理由は,国内外におけるインタビューのための出張を,新型コロナウィルス蔓延防止の観点から,延期せざるを得なくなったためである。このため,インタビュー実施のための出張旅費及びインタビュー音声のテープ起こしに関する支出が次年度に繰り越しとなった。 使用計画は以下のとおりである。令和4年度において1件の海外出張を予定している。これらは,国際会議開催の機会に調査対象者が一堂に会する機会を活用して,インタビューを行うものである(Instrument Flight Procedure Panel Working Group 16-1(主催者: International Civil Aviation Organization)(2022年9月)(60万円))。 また,既に投稿済みの論文に対する査読コメントに対応する際の英文校正(30万円),追加インタビューのためのテープ起こし(10万円),その他の旅費等に対し,研究費を使用する計画である。 加えて,2次データ中心の分析にシフトする場合に備え,「質的比較分析」(QCA: qualitative comparative analysis)によるデータ分析を行うため,ワークステーションの購入を検討したい。
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