2020 Fiscal Year Research-status Report
創造的成果の予兆となる組織メンバーの日常的ネットワーキング行動の探求
Project/Area Number |
19K01923
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
永山 晋 法政大学, 経営学部, 准教授 (10639313)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 創造性 / 日常行動 / 移動 / 働き方の多様性 / ウェルビーイング / エンゲージメント / イノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、創造的成果創出の予兆となる日常行動を明らかにすることである。2020年度に得た主な研究成果は主に2つである。 一つは、代表者が野村不動産ヒューマンファースト研究所と共同で行った創造性に関するアンケート調査である。本アンケートは関東で就業している約3000人を対象に、創造性、ウェルビーイング、エンゲージメント、オフィス内外の移動パターン、働く場所とその活動について調査した。暫定的な結果ではあるものの、重回帰分析、機械学習を使ったマッチング法による分析の結果、様々な場所で働いている人、移動が多い人ほど創造性、ウェルビーイング、エンゲージメントのいずれも高くなる傾向がみられた。当該分析結果の概要は、2021年3月にプレスリリースで発表された。 もう一つは、概念とイノベーションに関わる研究である。概念とは、対象を正確かつ単純に表現したモデルのことである。イノベーションとは、社会に新しい価値を提供する製品、サービス、技術、ビジネスモデルを指す場合が多いが、ときにイノベーションは人々がもつ概念をシフトさせることがある。概念がシフトすることで、人々が製品やサービスに対する価値そのものの感じ方が変化しうる。2020年度、代表者は人や社会がもつ特定の対象に対する概念をシフトさせるイノベーションについて、「現象」と「概念」の視点から検討した。ここで現象とは、人が繰り返し知覚する心理的、物理的体験のことである。概念をシフトさせるには、現象を未知から既知へ、あるいは概念を未知から既知へシフトさせる必要がある。そのためには、新たな日常行動を創出するイノベーションが概念シフトにおいて効果的だと考えられる。本論考は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの2021年4月号に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、創造的成果創出の予兆となる日常行動を明らかにするため、情報伝達と価値観の伝染の起点となる人々のネットワーキング行動に着目していた。前年度の報告書にも記載したように、新型コロナウイルス感染症流行の影響を受け、当初予定された調査協力先における日常のミーティング行動の調査実施が困難となった。 そこで代表者は、2020年度から調査の視点を変えて日常行動と創造性の関係を明らかにすることとした。具体的には、日常行動の一つとして「移動」と「働き方の多様性」に着目した。移動もミーティング同様に新規の情報獲得源となる。実際に、移動は創造性にポジティブな影響を与える研究がいくつか存在する。さらに、移動と関係し、日々の仕事において、どの場所で何をするか、という働き方の多様性にも着目した。既に、個人ワークの環境であれば、好きな場所で働くことWork-From-Anywhereは生産性に正の因果関係があることが実証されている。ただし、移動も働き方の多様性も、生産性や創造性の一側面しか捉えることができていない。そこで、代表者は先述した創造性、エンゲージメント、ウェルビーイングの3つの成果への影響についてアンケート調査を実施した。暫定的な分析結果を得たものの、論文化にはいたっていない。 また、代表者は、新たな研究の方向性として、日常行動と密接に結びついた「概念」に着目し、論文を執筆した。概念については引き続き、調査を継続している。 さらに代表者は、機械学習を使った実証研究の方法に関する知識を網羅するため、社会科学における機械学習の活用方法についてもレビューを行った。本調査は既に論文執筆済であり、投稿準備の段階に入っている。 以上から、当初の計画を再検討することで一定の研究成果を得ることができた。ただし、学術誌への投稿の面ではまだ十分とはいえない。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2021年度の研究推進方法は、現在取り組んでいる4つの研究について、それぞれ説明したい。 1つ目は、先述した野村不動産ヒューマンファースト研究所と共同で行った移動と創造性に関するアンケート調査を行った研究である。本研究は既に暫定的な分析結果が得られている。結果の頑強性を確認する追加的分析を行った後、投稿先ジャーナルを選定し、そこから逆算して必要な論文構成を検討することで研究を推進したい。とりわけ、英文校正のサービスにフルパッケージサービスを選択し、投稿までのスピードを高めたい。 2つ目は、創造性とチーム内における知識構成に関わる研究である。本研究は既に分析結果が得られ、論文化もほぼ完了しているため、英文校正を行ったうえで、2021年度中に学術誌に投稿したい。 3つ目は、昨年度開始したSansan社と共同して行っているマジカルエンカウンター研究である。本研究では、追加データを既に得ているが、分析可能な段階までのデータの前処理ができていない。これを推進するため、研究アシスタントなどの助けを借り、研究のスピードを高めたい。2021年度中に、論文執筆に向けた分析結果を得ることを目標としている。 4つ目は、新たに移動を研究の切り口にしたことから、まだ実現可能性について検討段階ではあるものの、新しい調査を計画している。2021年度中に調査方法を考案し、データ収集まで行うことを目標としている。
|
Causes of Carryover |
予定していた国際学会が新型コロナウイルスの蔓延のため、オンライン開催となり、使用額の差が生じた。また、研究の視点を日常行動としての移動に変更したことから、調査計画を大幅に変更したことも次年度使用額が生じた理由となっている。 次年度の使用計画について説明する。今後も国際学会への参加機会は限られることが予想される。学術誌への投稿頻度を高めたいため、海外出張に代えて、3回分の英文校正費として50万円を使用する予定である。 また、データ処理や分析に関わる作業のスピードを高めるため、研究アシスタントに関わる費用を20万円、分析用PCの購入に関わる費用として30万円を使用する予定である。
|