2023 Fiscal Year Research-status Report
会計基準設定における事後的影響分析としての適用後レビューに関する国際比較制度分析
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19K01990
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
辻川 尚起 兵庫県立大学, 国際商経学部, 准教授 (50346631)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 適用後レビュー / PIR / 会計基準設定 / 会計基準の適正手続 / デュー・プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度は,研究計画申請段階で想定していなかった新たな課題として,人的資本やサステナビリティ情報の開示やその基準に関して,グローバルな環境下でも我が国においても関心と重要度が増しており,その基準設定に関するプロセスも研究対象とすべきと考え,R5年度の課題に加えた。基礎概念研究からのスタートとなり,当初の予定よりも研究進捗が遅れることとなったため,「現在までの進捗状況」で「やや遅れている」と自己評価するに至った。 本研究の目的は,会計基準の設定過程にかかわるデュー・プロセスにおいて,近年,アメリカ,国際基準,日本などで制度化された,会計基準の影響分析のために会計基準設定主体サイドが実施している会計基準設定における適用後レビュー(Post-implementation Review: PIR)について,その制度の国際比較と影響要因の分析,すでに行われた適用後レビューの具体的な内容の再検討,追加的な実証研究などを行い,これらを複合的かつ多面的に検討することで,会計規制や会計基準設定主体のあり方に関する含意を探ることである。 そのための具体的課題として,R5年度は,主に2点,第1に今後実施予定(後述の通りR6年度へ助成期間延長承認済)の追加的な実証研究のリサーチデザインの確定とデータベースの構築に取り組み,第2に研究計画申請段階で想定していなかった新たな課題として人的資本やサステナビリティ情報の開示やその基準に関して,ISSBによる情報要請「アジェンダの優先度に関する協議」やSSBJにおける「サステナビリティ開示基準等の開発に係る適正手続」などを事例として取り上げ検証し,その特質と問題点を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画申請段階で想定していなかった新たな課題への取り組みが生じたことが大きく影響している。すなわち,あらたに,人的資本やサステナビリティ情報の開示やその基準に関して,グローバルな環境下でも我が国においてもESG投資などを通じて関心が高まり重要度が増しており,その基準設定に関するプロセスも研究対象とすべきと考え,R5年度の課題に加えた。 わが国でも,2023年1月の内閣府令における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」や「コーポレートガバナンスに関する開示」に関係する「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が行われ,2023年3月末以降に有価証券報告書に当該情報が開示されるようになった。その間,金融庁は,2022年11月7日から1か月間,パブリックコメントを募集し,その結果として概要と金融庁の考え方を公開している。これは当該ルール設定にデュー・プロセスがとられていることを意味するものであり,本研究の新論点として看過できない現況の変化といえる。IFRS財団は2021年11月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を,またわが国でも2022年7月にSSBJ(日本サステナビリティ基準委員会)をそれぞれ発足させている。 具体的には,ISSBによる情報要請「アジェンダの優先度に関する協議」やSSBJにおける「サステナビリティ開示基準等の開発に係る適正手続」などを事例として検証したが,新たな課題への取り組みのため先行研究もまだまだ数少なく,基礎概念研究からのスタートとなり,当初の予定よりも研究進捗が遅れることとなった。そのため「やや遅れている」と自己評価するに至った。 なお,R5年度末に1年間の研究補助事業期間再々延長申請を行い,日本学術振興会から1年延長の承認を頂いたため,新たに終了年度となったR6年度も本課題研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
幸いにも,あと1年間の研究補助事業期間再々延長の承認をいただけたため,R6年度は,本研究の一貫した枠組みのもとで,最終年度として下記の2つの論点について,以下の予定で研究を進めていく予定である。 まず,第1に,R5年度を中心に取り組む予定であった本研究の3つの課題のうち,課題(3)適用後レビュー実施例における学術研究調査を踏まえた追加的な実証研究に取り組む。その際,本研究ではこれらの重要課題に対して,政策過程論,政策評価論など学際的な見地から規制や基準の設定過程や規制実施後の政策評価に関する関連研究を援用して会計規制とそのデュー・プロセスのあり方へのインプリケーションを探ることとしたい。また,R3年度に購入した,実証研究の財務データベース作成の基礎データとなる財務データCD-ROMダイジェスト版(アカデミック利用)・東洋経済新報社に基づき,実証研究に取り組む。 さらに,第2の論点として,R5年度から取り組んでいるIAABの国際サステナビリティ基準に関連して,2023年に公表されたIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」,IFRS S2号「気候関連開示」,2024年に入りスタートした「自然および人的資本に関連するリスクおよび機会に関するリサーチ・プロジェクト」などを対象に,おもにその設定過程におけるデュー・プロセスのルール,プロセス,結果とそれらに至った背景を中心に分析を進める。 研究成果は学術研究集会での研究報告ののち,論文(可能であれば研究叢書)として公刊することを計画したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた主たる理由は,繰り返し述べてきたように,研究計画申請段階で想定していなかった新たな課題,すなわち,2021年11月に発足した国際サステナビリティ基準設定主体のISSB,またわが国でも2022年7月に発足したサステナビリティ基準設定主体のSSBJに関係して,設定過程におけるデュー・プロセスのルール,プロセス,結果とそれらに至った背景を研究課題に加えたためである。制度としても導入されたばかりで先行研究も少なく,また,有価証券報告書等を通じた「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」の実務もまだまだ客観的に分析が可能となるにはその蓄積が乏しい。 R6年度もそれまでの新型コロナウイルスcovid-19禍期と同様に,「現在までの進捗状況」で「やや遅れている」との自己評価を判断せざるを得ない状況であった。これを受けて,さらに1年の補助事業期間再々延長承認申請を行い,R6年度の日本学術振興会から補助事業期間の延長を承認いただいた。 R6年度は,R2~4年度に実施を控えていたデータベース作成および関連資料収集のための文献資料収集,および学会・研究会での研究成果報告のための出張旅費を中心に利用予定でいる。また,会計基準の他,政策評価論,政策過程論,公共選択論,法と経済学などの最新の文献資料の購入も行う。
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