2019 Fiscal Year Research-status Report
レベニューマネジメントと収益モデルのイノベーションに関する研究
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19K01998
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
片岡 洋人 明治大学, 会計専門職研究科, 専任教授 (40381024)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サービタイゼーション / サービス化 / ソリューション / 顧客側のライフサイクル・コスト(TCO) / 会計担当者 / 原価企画とABC / 収益性管理 / レベニューマネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の製造業を取り巻く経営環境は、製品のコモディティ化や需要の減退等によってますます厳しい競争に晒されている。そこで、多くの製造業者は、単なるハードウェアの提供事業者からハードとソフトを組み合わせたソリューション・サービスの提供事業者へと転換を図っている。このような製造業のサービス化現象を「サービタイゼーション」といい 、この戦略を「サービス化戦略」ないし「サービタイゼーション戦略」という。レベニューマネジメントにおける新しい戦略である。本年度は、まず文献研究を中心に、サービス化戦略を適切に策定・実行するために必要な管理会計システムを模索した。 サービタイゼーション研究は近年になって急速に蓄積されつつあるものの、サービス化戦略に適する管理会計システムを取り上げている研究は、ほとんど見受けられない。「製品・サービスの連続体」がソリューション提供単位としての原価計算対象になるにあたり、どのようにして「目標価格-目標利益=目標原価」の関係式を構築するべきかが検討される必要がある。 そこで、まずサービタイゼーションの意義と類型、PSS(Product-Service System)、戦略の段階等について検討した。とくに、サービス化の進展段階は、顧客志向とサービス化の進展段階に着目すると、①製品支援型サービス(service supporting the supplier's product: SSP)と、②顧客活動支援型サービス(service supporting the client's action in relation with the supplier's product: SSC)に類型化できることは興味深い。以上より、サービス化の進展段階、それに適合する組織パターン、さらにサービス化戦略における管理会計システムの課題を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2019年度)は、サービタイゼーションにおける先行研究の分析および複数企業へのインタビュー調査を中心に行うことによって、学会報告および学術論文執筆のための重要な資料を収集することができた。とりわけ、様々な先行研究から、サービタイゼーションのパターンが非常に多様であることも明らかにできたし、会計担当者を中心に企業内の様々な部署の担当者の見解を伺い、資料収集し、製造業のサービス化に関する所見を聴取できたことは大きい。 このような調査および先行研究レビューを踏まえ、本年度には、国際学会における学会報告を1件、および学術論文を2件という研究成果を発表した。 いずれも、原価計算対象である製品・サービスを媒介として適切な収益性管理を行うために、各々の研究成果において、サービタイゼーションという新しい収益獲得のパターン、製品原価計算システムの設計と運用の考え方、および会計担当者の倫理と役割期待について詳細に検討しており、いずれも今後の研究への展開可能性を示唆することができた。 さらに、2020年度以降における研究報告および学術論文の投稿への準備も着実に進めることができたことは大きい。とりわけ、日本会計研究学会(JAA)における2020年全国大会報告をはじめとした各学会での研究報告へ向けての準備や、内外の学会ジャーナルへの投稿へ向けた論文執筆の準備も順調である。 このように、より適切な収益性分析(収益性の管理)を通じて、より良いレベニューマネジメントを推進するために、先行研究の検討と各企業の取り組みについての資料収集を行うことがができ、また、様々なアプローチによる研究成果を発表することができたと言える。さらに、次年度へ向けた研究の蓄積を確実に行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(2019年度)は、本プロジェクトの1年目であり、わが国を代表する優良企業で取り上げられているサービタイゼーションおよびレベニューマネジメントの実務に関する諸問題を明らかにするために、先行研究を詳細に分析するとともに、複数の企業を訪問し、企業実務における各業務担当者が直面している問題点を調査した。2020年度も、本年度と同様に、先行研究を詳細に分析しつつ、継続して複数企業へのインタビュー調査を進め、理論的なアプローチと実証的なアプローチとの相互作用を引き出すことが重要であると考えている。 第1に、拙稿「製造業のサービス化戦略と管理会計」『會計』第196巻第6号において提示したように、極めて多様なサービタイゼーション戦略が存在している中で、新たな経営環境・戦略・管理会計モデルにおける会計上の課題は多く、原価企画とABCとの結合や、顧客側のライフサイクル・コスティングも重要であるといえる。 第2には、各企業において、新しい収益獲得パターンや収益モデルをどのように中期経営計画のなかで位置付けているのかを改めて検討する必要がある。中期経営計画と顧客に対する価値提案は、製品別の収益性管理(原価企画など)や販売価格設定との連動はもちろんのこと、設備投資計画とも連動している必要があるし、期別の予算管理とも連動している必要がある。しかも、それらは曖昧なものではなく、システム間で、矛盾なく、しかも強固な連動でなければならない。 さらに、そのようなシステム間の連動性を高めるためには、拙稿「会計担当者の役割と職業倫理」『会計論叢』15号で提唱したように、会計担当者に対する役割期待の大きさや倫理感の醸成も見逃してはならない。 今後、各企業の取り組み、価値提案、収益モデルの類型化の方法に合わせて、「中期経営計画」と「サービタイゼーション」に着目し、研究を発展させることが可能である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延により、当初予定していた企業へのインタビュー調査等に行くことができなかったため、差額が生じた。 次年度において継続する、企業へのインタビュー調査を行うために使用することを予定している。
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