2020 Fiscal Year Research-status Report
Social and Environmental Accounting for Creating Shared Value
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19K02006
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
地道 正行 関西学院大学, 商学部, 教授 (60243200)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 企業財務データ / 付加価値分配 / 租税回避行動 / ESGと企業価値 / 探索的データ解析 / 統計モデリング / 可視化 / 再現可能研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①まず世界規模の財務ビッグデータを用い、探索的データ解析に基づくデータ可視化によって、企業活動の実態とその帰結の証拠を提示し、企業行動の新しい知見と課題を明らかにすること、②その上で、企業行動をCSV(共有価値創造)に向けて変革するために、課題解決の方策を探り、統計モデリングによる予測と実証分析を行うことでその有効性を検証することである。 ①については、世界160カ国の全上場企業の企業財務ビッグデータを用い、時空間の観点からビジュアライゼーション技法を用いた可視化を行い、データ自身の情報を探索的に引き出すことで、企業の付加価値分配と人的資本の関連、生産性分析、租税回避行動に関するグローバルな企業行動の実態に関する新しい知見と課題を明らかにした。また、企業のE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス) 活動に関する開示情報として、FTSE Russell ESGレーティングデータと財務情報としてBureau van Dijk(BvD)の全上場企業の財務データ(Osiris)を用い、過去6年間における ESG情報開示・実績と企業価値との関係を国別・業種別に可視化した。 ②については、可視化した情報をもとに、時間・空間の両面から探索的データ解析 (Exploratory Data Analysis: EDA) を実行することによって、企業行動を高精度に予測する統計モデリングと実証分析を行い、その有効性の検証を進めている。なお、企業サイズ分布(Firm Size Distribution: FSD)や、確率フロンティア分析 (Stochastic Frontier Analysis: SFA)に基づく企業分布生成理論モデルに関して検証を行っている。なお、これらの研究は、近年その重要性が指摘されている再現可能性を研究全体に対して確保し、進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、次の(1)から(3)の研究実績を得ることができた。 (1)企業のE(環境) S(社会) G(ガバナンス)活動に関する開示情報として、FTSE Russell ESGレーティングデータと、財務情報としてBureau van Dijk(BvD)の全上場企業の財務データ(Osiris)を結合し、過去6年間におけるESG情報開示・実績と企業価値との関係を分析した。企業のESG情報開示・実績については、国別・業種別に可視化し、さらに、ESG情報開示・実績と企業価値の関係について、対散布図やモーションチャートを用いた可視化によって明らかにした。また、株式時価総額をESGレーティングで予測するためのモデリングとして、誤差が非対称分布族に従う両対数モデルなどを考え、その当てはまりをAIC基準などで比較・検討した。 (2)経済格差は世界的な課題の一つであり、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の観点からも経済格差の是正が示されている。これは第一義的には国家の責任と認識されているが、実際に分配を行う主体の大部分は企業であることから、企業の付加価値分配の実態と、分配の1つである納税行動に焦点を当てて探索的データ解析を行った。 (3)非上場企業を含む世界の全企業の財務データセット(Orbis)について、GNU parallelを利用してデータの前処理を並列化した。成果として、従来の方法と比べて5倍程度の処理速度の向上が得られた。また、東京大学情報基盤センターのFENNEL環境(スーパーコンピュータ)のもとで、Apache Spark、PG-Strom環境とデータ解析環境Rを連動して利用し、データラングリングを行う速度を改善するための方策を検討した。成果として、従来方法による処理速度よりも20倍程度の向上が得られ、今後のOrbisデータを用いた探索的データ解析を可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗を勘案し、2021年度以降は、次の(1)から(4)のような視点から研究を進める予定である。 (1)企業の格差と付加価値分配:世界規模の企業財務データを用いて、企業の国際的な格差の実態と推移について、ストック(純資産)の観点、および、フロー(売上)の観点等から可視化し、企業活動のグローバル化等が抱える課題を明らかにする。また、格差をもたらす企業の付加価値分配(主要ステークホルダーへの分配とその推移)、および、付加価値分配の1つとしての企業の納税行動について多角的な観点から分析し、企業の分配行動の変化や租税回避の蓋然性などを明らかにする。 (2)ESGと企業価値との関連:企業の環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Governance: ESG)データを用いて、ESG情報と企業価値の関係に関して多様な観点から可視化と統計分析を行う。 (3) 株式時価総額のモデリング:世界の全上場企業の株式時価総額のモデリングに関する結果をさらに詳細に検討し、再現可能研究として論文を執筆する。また、対数変換と Box-Cox 変換によって売上高を変換したものに正規分布と非対称分布族を当てはめることによって統計モデリングを行い、その再現性も検証する。企業サイズ分布や確率フロンティア分析に基づくモデリングも引き続き検討する。 (4)データ前処理とデータラングリングのさらなる高速化:財務データ等の前処理とデータラングリングについて、従来よりも高速に再現性を確保して実行し、さらなる高速化・効率化を進める。
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Causes of Carryover |
2020年度に次年度使用額が生じた最大の理由は、購入予定であったパーソナルコンピュータ(PC)について、その性能評価で最も重視されるユニットである中央処理装置(CPU)がIntel社製の第9世代から第10世代に転換すると予想されていたが、Apple社が開発者向けに開催するカンファレンス(WWDC)で、急遽Intel社のCPUからArmアーキテクチャのTSMC社製(M1)チップに変更するという大きな方針転換が発表されたためである。2020年度に購入予定であったMacBook Pro16インチは、第10世代のCPU搭載が予想されたが、ArmアーキテクチャCPU(M1)への変更がアナウンスされ、MacBook Proの発売自体が2021年度以降となった。本研究との関係では、分析対象の財務データは140GBを超えるファイル群が複数セット存在するため、CPUコアを並列化し、かつ高速に処理する必要があり、可能な限り処理能力の高いCPUが搭載されていることが重要な条件となる。そこで、2021年度に販売が予定されているArmアーキテクチャCPUが搭載されたMacBook Pro16インチを購入し、データの前処理を高速に実行する予定である。なお、MacBook Proを購入する理由は、性能(CPU、ストレージ、メモリ、ネットワーク)・機動性等の点で本研究を実行するために唯一のものであるからである。
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Research Products
(21 results)