2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K02014
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
繁本 知宏 香川大学, 経済学部, 准教授 (90756842)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 信用力 / 格付 / 財務指標 / 意思決定有用性 / テキスト分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
補助事業期間2年目となる令和2年度は、当初計画には含めていなかったテキスト分析の理論的基盤の解明に取り組んだ。この背景については下記「7.現在までの進捗状況」に詳述しており、研究成果は論文として公表済みである。当該論文では記号学におけるF.Saussureのコードモデルに依拠し、文章中に出現する語は発信者の思考を反映しており、文中に頻出する語は発信者の思考が強く向けられている概念であることを明らかにした。さらに、文脈から語を切り離すBag-of-wordsへの批判に対し、Prietoのモデルを用い、クラスター分析や共起分析を行うことによりコンテクストを回復させることができ、またそうすべきであることを指摘した。この結果、本研究が採ろうとしている研究手法は単なる現象への寄りかかりではなく、理論的基盤を有する手法であることを示すことができたと考えている。 また、昨年度の実施状況報告書において、新型コロナ感染症拡大の影響として格下げが増えているため、サンプルを拡大するか否かを検討する必要がある旨を述べた。これについては、ある意味で特異な状況をサンプルに含めることにならないかという観点から実施の可否を検討した。その結果、原因は特異だとしても、減収(減収見込み)が財務状況の悪化(悪化見込み)を招き信用力低下につながるというメカニズムは、一般的な原因に端を発する格下げと相違しない。また、新型コロナの影響が大きければテキスト分析の中で捕捉できると予想され、その影響を考慮した分析も可能と考えられる。加えて研究進捗がやや遅れていることもあって、最新のサンプルを取り込む時間もあったことから、2020年の格付リリースも分析対象のサンプルに含めることとし、その作業と本研究用の辞書の修正も実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
補助事業期間2年目となる令和2年度は、当初計画では令和元年度に実施した頻出語分析の結果をもとに、信用力評価の鍵となる語を抽出し、信用力評価においてその語がどのような役割を果たしているのかを考察する予定であった。 しかし、令和元年度の成果を私的な研究会で報告したところ、ある語が頻出するからといって、それがなぜ信用力評価を行う主体の思考の現れと言えるのかが不明であり、その根拠を明らかにしないまま考察を進めても理論なき現象の説明に終わってしまうのではないか、とのコメントが出された。 本研究が採るテキスト分析は幅広い学問分野で採用されている研究方法である。ただ、上記コメントが指摘するような視角からテキスト分析、とりわけ頻出語分析の理論的基盤を明らかにした先行研究は、改めて文献レビューを行ったものの、詳細な検討が加えられているものを見出すことはできなかった。 そこで当初研究計画には含めていなかったが、頻出語分析の理論的基盤の解明に取り組んだ(5.研究実績の概要を参照)。この結果、本来令和2年度に行うべき研究が後ズレし、研究進捗がやや遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に頻出語分析の結果を論文としてまとめ公表する。これと同時に、本研究用に作成した辞書に関する説明を補論として文書化することも検討し、今後の辞書拡大に向けた足がかりとしたいと考えている。 第2にBag-of-wordsから分析対象文書の有するコンテクストを回復した分析を行うべく、クラスター分析and/or共起分析を実施し、語の関係を分析する。これにより、頻出語それぞれの位置関係を掴み、信用力分析においてどの語がより重要な位置を占めているのかを指摘する。これも論文として公表する。 第3として当初計画ではテキスト分析の結果を信用力評価の予測につなげることを想定していた。しかし、これには想定以上に多くの研究資源を投入する必要があることが次第に判明してきたことから、まずは一旦、会計的観点から信用力評価の理論を打ち立てて補助事業の成果を出したい。すなわち、これまでの分析で明らかにした信用力評価において鍵となる語、すなわち財務指標(あるいは会計情報)が、会計基準の文脈においてどのような性格付けをされているかを考察する。これにより、株式投資家に対する有用な情報提供を主眼とする会計基準に従って作成された会計情報が、信用力評価にそのまま通用するのか、それとも通用しないのであれば何がどう通用せず、どう対処すれば良いのかを示す。これを本研究の総括論文として公表する。 その後、時間的余裕が残されていれば、過去情報の分析が将来予測に役立つことを緩やかながらも示すため、教師あり学習の一種であるベイズ学習を用いた分析を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は2点ある。1つは令和元年度に購入したデータベースDVDについて、フルスペックで購入すると予算オーバーの恐れがあったためにやむを得ず購入範囲を絞ったところ、支出額が予定を下回った。もう1つは令和元年度後半から令和2年度一杯にかけて、新型コロナの影響により出張が一切行えなくなったため、旅費執行がゼロとなったことである。この結果生じた次年度使用額は、今年度予算と合わせて、昨年度に購入範囲を絞ったデータの一部を購入するために利用することを検討している。
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Research Products
(1 results)