2022 Fiscal Year Research-status Report
戦時期日本における会計実務の植民地への展開に関する研究
Project/Area Number |
19K02018
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
山下 修平 国士舘大学, 経営学部, 准教授 (80635920)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒井 弘毅 共立女子大学, ビジネス学部, 教授 (30362594)
本間 正人 秀明大学, 総合経営学部, 准教授 (10895006)
山口 直樹 秀明大学, 総合経営学部, 講師 (70805423) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 会計史 / 経理統制 / 王子製紙 / 減価償却 / 勘定科目 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦時期における王子製紙決算報告書史料群を用いて、会計実務の満洲への展開を明らかにすることを目的としている。史料の収集調査と分析作業をふまえ、①減価償却実務の解明、②勘定科目の標準化の過程の解明に重点を置き研究を進めている。 史料収集については、王子製紙決算報告書史料群が収蔵されている「紙の博物館」において進めてきた。これまでに、複数の王子製紙工場や、満洲のおける王子製紙の傍系会社の決算報告書データを収集し、分析を進めてきた。さらに、古書店等から王子製紙の考課状を入手し、①を補強する史料として活用している。また、戦時期の計理士に関する史料収集を行い、当時の職業会計人の視点から、当時の会計実務を明らかにしようと試みている。 これまでに、①王子製紙各工場や満洲の傍系会社において、1941年-1942年に、減価償却の実務に変化が生じていること、②王子製紙の各工場のみならず、満洲の傍系会社を含め、総勘定元帳残高表における勘定科目の標準化が進んでいることを明らかにした。2022年度には、王子製紙の考課状を用いることにより、1941年以降における減価償却の実務の変化が全社的に生じていることを明らかにし、①を補強する成果を示すことができた。さらに、戦時期における減価償却を扱った文献を整理することにより、王子製紙の事例がどのように位置づけられるのか検討を行った。また、職業会計人の実務に着目し、戦時期における計理士団体「計理士会」主催の講演記録から、計理士が会社経理統制令などの会計を統制する諸法令を推進する役割を担った実態を指摘した。 2022年度は、上記の研究成果の一部について、日本会計史学会のほか、経営史学会東北ワークショップにおいて成果を報告する機会を得た。これまでの研究成果を、会計史分野のみならず、経営史分野に発信することができ、より広い研究領域に貢献することができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの史料の収集調査と分析作業から、①「減価償却実務を明らかにすること」、②「勘定科目の標準化の過程を明らかにすること」に重点を置き研究を進めている。さらに①②を補完する視点として、③「戦時期の職業会計人である計理士の経理統制への役割」に着目している。 一次史料の収集と、これらの分析作業はおおむね順調に進展している。これまでに、「紙の博物館」(東京都北区)に所蔵されている王子製紙工場や、王子製紙の傍系会社の決算報告書のデータの収集(写真撮影)を進めてきた。さらに各地の大学図書館等において、王子製紙考課状や、計理士団体に係る史料の調査を進めている。2019年度において史料の収集を想定以上に進めることができたので、2020年度以降は主にデータの分析と考察、論文執筆に労力を割いている。 ①については、王子製紙工場(苫小牧工場、伏木工場)と、在外の傍系企業(鴨緑江製紙、六合製紙、安東造紙)について、固定資産に係る会計諸表を用いることにより、その実務の一端を明らかにし、論文として成果をまとめることができた。 ②については、国内の王子製紙4工場(苫小牧工場、神崎工場、熊野工場、八代工場)と、在外の傍系企業3社について、分析を進めた。国内の4工場については、総勘定元帳残高表を用いて、勘定科目の変化を把握し、その標準化の過程を明らかにした。学会においても一定の評価を得ることができた(日本簿記学会 令和3年度奨励賞:「戦時期日本の経理統制下における勘定科目の標準化―大規模製紙業を事例に-」、『簿記研究』第3巻第2号)。また、日本本土における標準化は、満洲への展開に影響を与えたことを指摘した。③については、計理士会主催の講演記録を用いることにより、当時の計理士の活動の一端を明らかにした。戦時期の計理士が、国の方針に従い、経理統制を広める一翼を担っていた側面があることを指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の拡大による影響はあったものの、これまでおおむね順調に史料の整理・分析と、論文執筆を進めてきた。2022年度までに、戦時期における会計実務の変化の一端を明らかにしてきた。具体的には、日本本土における王子製紙の各工場と、満洲に所在していた傍系会社3社について、それぞれ別個に、減価償却の運用状況を明らかにした。さらに、日本本土で見られた勘定科目の標準化は、その一部が満洲の企業においても展開していることを指摘した。 2023年度は、日本と満洲のそれぞれの会計実務を比較分析することにより、日本から満洲に展開していった会計実務の一端を明らかにし、両者の関係性をより明らかにすることを目標とする。さらに、これまでの成果を補完するような研究を進める。とくに、戦時期における職業会計人の実務に着目し、経理の統制が図られた時代における計理士の役割を考察する予定である。 上記の方針を実現させるために、史料の収集を進め、引き続き分析や論文執筆の作業を続けていく方針である。2022年度には、研究成果の一部について論文や学会報告の形で示すことができたが、多角度からの分析を進める必要がある。減価償却実務については、全容を明らかにするためには、収集したデータのさらなる分析が必要である。データの分量は膨大であり、地道な作業を続けている必要がある。また、史料収集先である「紙の博物館」には、まだ閲覧していない決算報告書が多く残されている。すべてを網羅することはできないものの、重要性を考慮しながら、史料の収集・分析を進めていく予定である。これまでに明らかになった研究成果をつなぎ合わせる作業を進め、本研究の目的である「会計実務の満洲への展開」を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、研究活動の一部が制約され、経費の執行額が想定を下回った。とくに2020年度・2021年度には史料収集に係る経費の執行額がなかった。また、学会報告や学会参加、研究会への参加がオンラインとなったことにより、旅費に関する経費の執行が想定を大きく下回ったことも、次年度使用額が発生した要因として挙げられる。今後、追加の史料の収集・調査の実施を想定しており、旅費や物品費の計上を見込んでいる。また、研究成果の発表のため、学会参加が想定されるが、対面による学会実施が増加することを見込んでおり、旅費の執行額の増加が予想される。
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Research Products
(6 results)