2020 Fiscal Year Research-status Report
包括利益・純損益およびその他の包括利益のリサイクリングをめぐる総合的研究
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19K02025
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
山田 康裕 立教大学, 経済学部, 教授 (20335160)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 純損益 / その他の包括利益 / リサイクリング / 概念フレームワーク / クリーン・サープラス |
Outline of Annual Research Achievements |
第2年度は,2019年12月に国際会計基準審議会が公表した公開草案「全般的な表示及び開示」について検討を行った。2010年ごろまで国際会計基準審議会において議論されていた業績報告に係るプロジェクトと当該公開草案を公表したプロジェクトとはいかなる関係にあるのか。また当該公開草案は,投資家のニーズに対応したものであるといわれているが,純損益とその他の包括利益の区分やリサイクリングといった論点の検討に関して投資家からニーズがあったのか,あったとすればそれが当該公開草案にどのように反映されているのか。本年度の研究では,国際会計基準審議会における議論を追うことをつうじて,これらの点を検討し,公開草案で提唱されている純損益計算書の問題点を明らかにした。 そもそも,基本財務諸表プロジェクトは,それ以前の財務諸表の表示プロジェクトを再開したものではなく,利用者の要請によって新たに立ち上げられたものであった。しかも,純損益とOCIの区分およびリサイクリングについて概念的な検討をおこなうべきであるという要請が頻繁にあったにもかかわらず,公開草案は当該要請に応えたものとはなっていない。永久にリサイクリングされないOCIがあるという点で,すべてのOCIがリサイクリングされる純損益とは異質な純損益であるという問題点は,本公開草案でも解決されておらず,問題を先送りにしたにすぎないといわざるをえないのである。 さらに,純損益・OCI・リサイクリングの概念や意思決定モデルを概念フレームワークが明らかにせずして,リサイクリングすべきタイミングを目的適合性や忠実な表現に求めるだけでは,概念フレームワークに期待される機能をはたしうるのか疑わしい。また国際会計基準審議会が提唱していた小計の意義を見出すことも,同審議会が想定する利用者の意思決定モデルが明らかでない以上,難しい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目には,「既存の基準と概念フレームワークとの関係について検討する。また,これらの考察を踏まえ,国際会計基準審議会へのインタビュー調査も行いたい。」という計画を立てていた。本年度において国際会計基準審議会から公表された公開草案の審議過程を考察することによって,当該計画は達成できたと思われる。 ただ,本来であれば,これをふまえ国際会計基準審議会へのインタビュー調査を考えていたが新型コロナウイルスの影響で実現できなかった。とはいうものの,研究内容の達成度という点では,国内における文献研究のみによってでも当初の予定をかなりの程度達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
おそらく,今年度において新型コロナウイルスの猛威が完全に収束する可能性は低く,国際会計基準審議会への調査は断念せざるをえないと思われる。したがって,これまでと同様,文献研究の手法によって,当初の研究目的を達成できるよう進めていきたい。 現在,国際会計基準審議会で検討されている事項はかつての業績報告プロジェックとのときや概念フレームワークの改定のときとにおける議論と同様にみえるものの,はたしてそれは議論の堂々巡りにすぎないのか。この点について,同型化やデカップリングといった社会学や政治学の諸概念を援用しつつ,議論の収束がみえない背景を考察するという方向で研究を進めていくことにしたい。
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Research Products
(2 results)