2019 Fiscal Year Research-status Report
A Visualization of Corporate Recognition about Internal Control Systems Using Corporate Disclosure, and an Analysis of Corporate Attitude and Behavior regarding Disclosure
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19K02027
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
記虎 優子 同志社女子大学, 現代社会学部, 准教授 (50369675)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 内部統制システム / 決算発表 / 適時開示 / 会社法 / 計量テキスト分析 / 内容分析 / 企業の情報開示 / 財務報告 |
Outline of Annual Research Achievements |
内部統制は、財務報告の信頼性を確保することのみを目的としているわけではなく、財務報告の信頼性という内部統制の目的は、業務の有効性と効率性や法規の遵守といった、内部統制のその他の目的と相互に関連している(COSO 1992:鳥羽・八田・高田共訳 1996)。内部統制のこうした目的相互間の関連性を踏まえると、財務報告に係る内部統制に限定せず、むしろ総体として内部統制を捉える必要があろう。しかし、内部統制システムに関心を向けているほとんどの先行研究は、内部統制の中でも財務報告に係る内部統制にしか着目していない。その上、これらの研究では、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥(重要な不備)があるかどうかに着目している。この結果、先行研究には、内部統制システムを定量的に評価する方法に限界がなお残されており、特に企業が内部統制システムについてどのように考えているのかといった、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知が財務報告にどのような影響を及ぼしているのかについては、管見の限りこれまでのところ解明されていない。 本研究では、こうした先行研究の状況を鑑みて、本年度においては「企業の情報開示」を分析視点として位置づけて、次のような研究を行った。すなわち、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制ではなく、会社法に基づく内部統制に着目して、内部統制システム構築の基本方針(以下、基本方針と呼ぶ。)についての具体的な開示内容から基本方針に表象された(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知を具体的に解明して、定量的に可視化した。その際には、認知的組織科学の知識表象研究の成果を援用するとともに、計量テキスト分析の手法を用いた。 以上のように、企業自身が開示した情報に表象された(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知を管見の限り初めて明らかにしたことに、本研究の意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、「企業の情報開示」を分析対象であると同時に分析視点としても位置付けている。本研究の第1の目的は、①「企業の情報開示」を分析視点として、企業が開示した情報を利用して企業が内部統制システムについてどのように考えているのかといった、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化することである。そして、本研究の第2の目的は、②「企業の情報開示」を分析対象として、内部統制システムに対する企業の認知との関連において企業の情報開示行動を分析することである。 上記の2つの目的を踏まえて、本年度においては上記①を目的とする「企業の情報開示」を分析視点として位置付けた研究を行った。当初の研究実施計画では、会社法に基づく内部統制に着目して、基本方針についてのテキスト型データに対してCorrelationalアプローチ(樋口 2014)に依拠した分析を行うことによって、内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化することを想定していた。 しかし、会社法に基づく内部統制は、財務報告に係る内部統制に限定されていないため、基本方針として開示された具体的な開示内容も多岐に渡っている。この結果、上述のCorrelationalアプローチに依拠した教師なし分類では、財務報告に影響を及ぼすことが期待される、内部統制システムに対する企業の認知をうまく類型化することができなかった。 そこで、Dictionary-basedアプローチ(樋口 2014)に依拠した分析を行うように計画を変更した。つまり、基本方針のテキスト型データに対して質的データの分析ソフトウェアを用いた教師あり分類を行うことにより、内部統制システムに対する企業の認知を定量的に捉えることにした。 このように、計画には変更が生じたが、上記①の研究目的は達成できたため、本研究はおおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2つの目的を踏まえて、本年度においては既述の①を目的とする「企業の情報開示」を分析視点として位置付けた研究を行った。その結果、内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化するという目的を達成できた。そこで、今後は既述の②を目的とする「企業の情報開示」を分析対象として位置付けた研究を行うことを予定している。 財務報告の手段として用いられる開示媒体には、日本の制度開示に限っても、証券取引所の自主規制に基づく決算短信(決算発表)のほか、会社法に基づくいわゆる株主総会招集通知や、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等など多岐に渡る。これらの制度開示情報のうち最も速報性が担保されている開示は、決算発表である。それゆえ、決算発表が適時に行われることは、証券市場の効率性を確保する上で極めて重要である。 決算発表時期に影響を与える要因を解明することは、すでに海外の先行研究では多数試みられている。しかし、かかる要因のひとつとして内部統制システムに直接注目した先行研究(記虎 2017. 2018)は極めて少ない。内部統制システムと決算発表以外のその他開示書類の提出時期の関係を解明した先行研究(Holder et al. 2016など)は海外ではいくつか存在するものの、この種の研究では、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥(重要な不備)があるかどうかに着目しているため、内部統制システムの質が低いと、適時の開示が阻害されることしか解明できていない。 証券市場の効率性を確保することに学術研究が貢献するには、財務報告の適時性を阻害する要因ではなく、むしろ財務報告の適時性の確保に積極的に資する要因を具体的に解明することが必要である。そこで、本研究では、財務報告の中でも特に決算発表に着目して、企業が内部統制システムについてどのように考えていれば、適時の決算発表の実施につながるのかを解明することを試みる。
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Causes of Carryover |
本研究の2つの目的のうち、既述の①を目的とする「企業の情報開示」を分析視点として位置付けた研究を行うにあたって、本研究では、内部統制システムに係る開示に着目して開示実態調査を行い、記述情報として開示された具体的な開示内容をテキスト型データとして手作業で収集することを予定している。 基本方針についてのテキスト型データについては、会社法公布日から数年の間に公表された基本方針についての適時開示資料をもとにこれまでの研究の過程ですでに収集していた。そこで、本年度においては、研究実施の効率性を勘案して、すでに収集済みの基本方針についてのテキスト型データの分析を優先して行いたかったことや、本研究に対する助成額の制約などを総合的に踏まえて、国内企業情報データベース「eol」の年間契約を見送った。これにより、次年度使用額が生じた。 しかし、会社法に基づく内部統制システムの運用状況の開示のほか、基本方針の開示についても最近公表されたものについては、開示された記述情報をテキスト型データとしていちから収集する必要がある。そこで、今後の研究の進展をみて「eol」契約料に助成金を使用する計画である。このほか、本研究の実施に当たって必須となる各種のソフトウェアを補助事業期間全体を通じて最も安価に利用するための方策として、ソフトウェアのサポート(ないしアップグレード)サービス契約料等に助成金を毎年使用する計画である。
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Research Products
(2 results)