2020 Fiscal Year Research-status Report
A Visualization of Corporate Recognition about Internal Control Systems Using Corporate Disclosure, and an Analysis of Corporate Attitude and Behavior regarding Disclosure
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19K02027
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Research Institution | Doshisha Women's College of Liberal Arts |
Principal Investigator |
記虎 優子 同志社女子大学, 現代社会学部, 准教授 (50369675)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 内部統制システム / 決算発表 / 適時開示 / 会社法 / 計量テキスト分析 / 内容分析 / 企業の情報開示 / 財務報告 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度においては、「企業の情報開示」を分析視点として位置付けて、会社法に基づく内部統制に着目して、内部統制システム構築の基本方針(以下、基本方針と呼ぶ。)についての具体的な開示内容から基本方針に表象された(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知を具体的に解明して、定量的に可視化した。 前年度の研究の成果を利用して、本年度においては、「企業の情報開示」を分析対象として位置付けて、以下に示した問題意識の下で研究を行った。 内部統制の目的の1つには報告目的があることから(COSO, 2013=八田・箱田監訳、2014)、内部統制は、企業が行う報告の1つである財務報告に何らかの影響を及ぼすと考えられる。財務報告の手段として用いられる開示媒体には、日本の制度開示に限っても、証券取引所の自主規制に基づく決算短信(決算発表)のほか、会社法に基づく株主総会招集通知などの総会関係書類や、金融商品取引法に基づく有価証券報告書など多岐に渡る。これらの制度開示情報の中で最も速報性が担保されている開示は、決算発表である。したがって、証券市場の効率性を確保するには決算発表が適時に行われることが重要であり、適時の決算発表に資する企業特性を解明することは、重要な研究課題である。 本研究では、上述のような日本の制度的環境を踏まえて、財務報告の中でも特に決算発表に着目して、企業が内部統制システムについてどのように考えていれば適時の決算発表につながるのかを解明することを試みた。そして、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知の中でも企業の財務報告志向に着目して、企業が内部統制システムの構築に際して財務報告をより重視していることが決算発表時期を早めることに資することを明らかにした。 このように、適時の財務報告に資する(目に見えない)企業の認知に係る企業特性を具体的に解明したことが、本研究の意義である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、「企業の情報開示」を分析対象であると同時に分析視点としても位置付けている。本研究の第一の目的は、①「企業の情報開示」を分析視点として位置付けて、企業が開示した情報を利用して企業が内部統制システムについてどのように考えているのかといった、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化することである。そして、本研究の第二の目的は、②「企業の情報開示」を分析対象として位置付けて、内部統制システムに対する企業の認知との関連において企業の情報開示行動を分析することである。 本研究の2つの目的を踏まえて、本年度においては②を目的とする「企業の情報開示」を分析対象として位置付けた研究を行い、記虎(2021)を公表した。 ①を目的とする「企業の情報開示」を分析視点として位置付けた研究については、すでに前年度において基本方針のテキスト型データに対して質的データ分析を行うことにより、内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化した。本研究で用いた質的データ分析の手法は、すでに教科書も多数出版されており(例えば、佐藤2008;Kuckartz 2012=佐藤 2018)、質的研究の分野では十分に確立された方法である。しかしながら、この手法は、会計学研究においてはBehn et al.(2006)などの一部の先行研究においては利用されているものの、これまでのところ一般に広く普及した手法となるまでには至っていない。このため、本研究における内部統制システムに対する企業の認知の定量化の信頼性・客観性をより担保する必要がある。そこで、本年度においては、今後の研究に生かせるよう内部統制システムに対する企業の認知の定量化の方法も改善した。 以上のとおり、本年度においては研究成果を公表するとともに将来の研究に向けた準備もできたので、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の上記の2つの目的を踏まえて、本年度においては既述の②を目的とする「企業の情報開示」を分析対象として位置付けた研究を行った。そして、適時の財務報告に資する企業特性として(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知に着目して、決算発表の早期化に寄与する要因を具体的に解明した。 今後も、既述の②を目的とする「企業の情報開示」を分析対象として位置付けた研究を行うことを予定している。既述のとおり、日本の制度的環境において、決算短信(決算発表)は、開示の速報性という点で財務報告の手段として用いられる各種の制度開示媒体の中でもとりわけ重要である。そこで、引き続き決算発表に着目して、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知が決算発表に及ぼす影響を解明することを試みる。 他方で、内部統制の目的の1つとされる報告目的は、財務報告に限定されるものではなく、非財務報告とも関連しているとされている(COSO, 2013=八田・箱田監訳、2014)。したがって、既述の②を目的とする「企業の情報開示」を分析対象として位置付けた研究においては、財務報告だけでなく非財務報告も分析対象とするべきである。 そこで、本研究では、非財務報告を分析対象として、(目に見えない)内部統制システムに対する企業の認知が非財務報告に及ぼす影響を解明することを試みる。内部統制システムと非財務報告の関係を解明した先行研究は海外ではわずかに存在するものの(Holder et al., 2016)、内部統制システムと企業の情報開示の関係を解明しようとする先行研究の大半は、財務報告に焦点を当てている。このため、内部統制システムが非財務報告に及ぼす影響についてはほとんど解明されていない。したがって、内部統制システムと財務報告の関係だけでなく、内部統制システムと非財務報告の関係を解明することも、重要な研究課題である。
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Causes of Carryover |
本研究の2つの目的のうち既述の①を目的とする「企業の情報開示」を分析視点として位置付けた研究を行うにあたって、本研究では内部統制システムに係る開示に着目して開示実態調査を行い、記述情報として開示された具体的な開示内容をテキスト型データとして手作業で収集することを予定している。 これまでの研究の過程で会社法公布日から数年の間に公表された基本方針についての適時開示資料をすでに収集しており、前年度においては収集済みの基本方針についてのテキスト型データに対して質的データ分析を行うことにより、内部統制システムに対する企業の認知を定量的に可視化した。本年度においては、前年度の研究の成果を優先的に利用したかったことから、国内企業情報データベース「eol」の年間契約を見送った。これにより次年度使用額が生じた。 本研究の進展にあたっては、会社法に基づく内部統制システムの運用状況の開示のほか、基本方針の開示についても最近公表されたものについては、開示された記述情報をテキスト型データとしていちから収集する必要がある。そこで、今後の研究の進展をみて「eol」契約料に助成金を使用する計画である。このほか、本研究の実施に当たって必須となる各種のソフトウェアを補助事業期間全体を通じて最も安価に利用するための方策として、ソフトウェアのサポート(ないしアップグレード)サービス契約料等に助成金を毎年使用する計画である。
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