2019 Fiscal Year Research-status Report
人本主義管理会計の理論的・実証的研究ー日本と中国を比較してー
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19K02028
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水野 一郎 関西大学, 商学部, 教授 (70174034)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人本主義管理会計 / ハイアール / 自主経営体 / 日本的経営 / 付加価値会計 / CSV / 生産性運動 / 渋沢栄一 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本と中国の人本主義企業を比較研究し、人間尊重と家族主義に基づく人本主義経営に立脚した人本主義管理会計の構想を提案し、確立させるための理論的・実証的基礎を提示することである。 人本主義企業についてのこれまでの研究と新たな人本主義企業へのインタビュー調査を踏まえて、人本主義経営理念と管理会計情報との関係を解明し、人本主義経営を支えている管理会計システムの特徴と構造を明らかにする。その際、経営共同体理念を有する付加価値会計からアプローチすることが本研究の特色であり、同時に戦後の日本的経営の基盤になってきた日本生産性本部を中心とする生産性運動の果たしてきた役割を探究することも本研究の独自性となっている。人本主義管理会計の中心となるのが付加価値会計であるが、その最大の特徴は、人件費を費用とはみなさず、付加価値からの成果配分と考えるため、労使が一体となりうる経営共同体理念を有しているところにある。 2019年度の本研究の研究実績としては、まず第1に人間尊重と家族主義に基づく人本主義とその背景にある日本的経営についての先行研究を整理し、現代の人本主義経営のあり方についての考察を予定通り、深めることができたことである。そこでは渋沢栄一の「道徳経済合一説」や「論語と算盤」を現代的に再評価し、日本的経営や人本主義経営思想の原点の一つが渋沢栄一の活動と経営思想にあり、CSVやSDGsとの関連性を明らかにしてきた。 つぎに第2の実施計画で予定していた中国の人本主義企業の調査研究としてハイアールの経営についてであるが、これについても最近のハイアールのZZJYT(中国語の「自主経営体」のローマ字表記の頭文字)組織の具体的な事例を紹介し、解明してきた。これについては、ハイアールやアメーバ経営を導入する中国企業の研究を続けている合肥工業大学の朱衛東教授との研究交流を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究実施計画としては、つぎの3点を予定していた。①人間尊重と家族主義に基づく人本主義とその背景にある日本的経営についての先行研究を整理し、現代の人本主義経営のあり方について考察を深めること、②中国の人本主義企業の調査研究、とくにハイアールの経営を継続して研究し、アメーバ組織と近似したハイアールのZZJYT(自主経営体)組織の実態と役割を解明すること、③人間尊重と家族主義に基づく人本主義の経営理念と管理会計情報との関係性についてのケース・スタディの実施。 ①については当初の予定通り、研究が進み、渋沢栄一の事蹟と経営思想を現代的な観点から捉え、CSVとSDGsとの関係性を明らかにすることができた。これについては2編の論文を公刊し、研究発表も実施できた(研究発表参照)。 ②については、ハイアールのZZJYT組織の具体的な資料を合肥工業大学の朱衛東教授より恵送していただき、文献的な事例研究として一定程度解明することができた。これについては1編の論文と学会報告で発表した(研究発表参照)。ただ当初計画していた安徽省のハイアール冷蔵庫工場の再訪と朱衛東教授と対面の機会が朱教授の米国訪問で実現することができなかった。ハイアールの青島本社などの訪問も課題ではあるが、新型コロナの影響もあり、2020年度も訪中が難しいことを懸念している。実際に訪問しなくても研究を遂行できる手段も考えてみたい。 ③については、一部の企業でインタビュー調査や資料収集も実施できたが、秋学期の大学の講義が終了し、出張など研究活動に専念できる2月と3月が新型コロナの影響で企業訪問が困難となっていたため、予定通りの企業訪問ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2020年度の研究実施計画としては、引き続き上記で述べてきた3点を予定している。 ①については、渋沢栄一に加えて、出光佐三、松下幸之助の人本主義研究を深化させ、さらに経営共同体理念を有する付加価値会計からアプローチと同時に戦後の日本的経営の基盤になってきた日本生産性本部を中心とする生産性運動の果たしてきた役割を探究する。生産性運動は、人間尊重を理念に「生産性運動の3原則(雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配)を掲げ、付加価値指標を重視して展開された。そしてこの運動は1970年代から80年代にかけて世界で注目された日本的経営として花が開いたと考えられるのである。 ②については、合肥工業大学や安徽省のハイアール冷蔵庫工場、ハイアールの青島本社などの訪問も課題となっているが、新型コロナの影響がまだまだ続く可能性もあり、2020年度も訪中が難しくなることを懸念している。そのため中国現地での訪問調査ができない場合に備えて、中国企業の研究を遂行する手段を考えている。そして中国の人本主義企業の調査研究をハイアール以外の企業にも広げ、インターネットを活用した文献収集と研究活動、そして研究者との意見交換なども追求してみたい。 ③については、新型コロナの影響が2020年度の4月からさらに深刻化し、緊急事態宣言も5月末まで延長されたことを考慮する必要が生じてきた。このことにより、当初研究対象として考えていた企業の経営状況も厳しくなり、実証研究などのように企業との交流を深め企業側に負担を掛ける研究は、2020年度では難しくなる可能性がある。そのためこれらの研究は2021年度以降に繰り延べることも考えている。実際の企業訪問が難しくなってくれば、代替的にインターネットを活用しての資料収集と研究活動、そして企業関係者との意見交換なども追求してみたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で予定していた出張を取りやめたため。
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Research Products
(7 results)