2022 Fiscal Year Research-status Report
人本主義管理会計の理論的・実証的研究ー日本と中国を比較してー
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19K02028
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
水野 一郎 関西大学, 商学部, 教授 (70174034)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 人本主義管理会計 / 日本的経営 / 付加価値会計 / 生産性運動 / 渋沢栄一 / 論語と算盤 / CSV / ハイアール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本と中国の人本主義企業を比較研究し、人間尊重と家族主義に基づく人本主義経営に立脚した人本主義管理会計の構想を提案し、確立させるための理論的・実証的基礎を提示することであった。人本主義企業についてのこれまでの研究を踏まえて、人本主義経営を支えている管理会計システムの特徴と構造を明らかにすることも重要な課題としてきた。その際、日本生産性本部を中心とする生産性運動の果たしてきた役割を探究することや道徳経済合一説を主張した渋沢栄一の経営思想と事蹟を研究することも本研究の独自性となっている。 2022年度の本研究の研究実績としては、まず人間尊重と家族主義に基づく人本主義経営を進めている企業のインタビューを含む調査研究を進めてきたことである。大企業としては、経営理念として「人を基軸におく経営」を掲げているダイキン工業を取り上げてきた。この研究は管理会計学会の産学共同研究の一環として実施し、最終報告を学会の全国大会で報告した(8月31日)。また中小企業についてもいくつかの会社のインタビュー調査を実施してきた。インタビューをした中小企業は、東海バネ工業(5月31日)、伊那食品工業(11月1日)、生方製作所(11月18日)、ネッツトヨタ南国(12月15日)、サエラ薬局(3月3日)などであるが、各種の表彰を受けてきた中小企業であり、財務的にはキャッシュ・フローを重視する健全で良く考え抜かれた「人を大切にする」経営が丁寧に展開されていた。 ただ本研究にとって残念なことは、新型コロナの影響で2022年度も中国を訪問することができず、中国の人本主義企業としてハイアールの経営に注目してきたが、本社がある青島を訪問することができなかったことである。また中国海洋大学の徐国君教授、合肥工業大学の朱衛東教授をはじめ、中国の研究者との研究交流を深めることができず、メールでの交流しかできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の研究実施計画としては、つぎの3点を予定していた。①人間尊重と家族主義に基づく人本主義とその背景にある日本的経営についての先行研究を整理し、現代の人本主義経営のあり方について考察を深めること、②中国の人本主義企業の調査研究、とくにハイアールの経営を継続して研究し、京セラのアメーバ組織と近似したハイアールのZZJYT(自主経営体)組織の実態と役割を解明すること、③人間尊重と家族主義に基づく人本主義の経営理念と管理会計情報との関係性についてのケース・スタディの実施。 ①についてはほぼ当初の予定通り、研究が進み、渋沢栄一の事蹟と経営思想を現代的な観点から捉え、CSV(共有価値の創造)との関係性を明らかにすることができた。また渋沢栄一の後継者ともいえる経営者達の経営理念や経営思想の研究も進んできた。さらに戦後の日本的経営の基盤になってきた生産性運動の果たしてきた役割も引き続き探究することもできた。 ②については、文献的な事例研究として一定程度解明することができたが、2022年度は2021年度と同様、それ以上に発展させることができなかった。当初計画していた青島のハイアール本社の訪問や安徽省のハイアール冷蔵庫工場の再訪と朱衛東教授との意見交換などが新型コロナの感染拡大のために実現できなかった。 ③については、こちらも新型コロナの影響で2022年度の前半は、当初の予定通り企業訪問ができなかっただけではなく、引き続き外部からの工場見学や従業員との交流も難しかった。しかし2022年度後半になって新型コロナの影響が少し落ち着いた段階で「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を受賞し、「人を大切にする経営」を進めている中小企業の訪問が可能となり、当初予定した企業ではなかったが、人本主義経営を展開している企業5社を訪問し、インタビュー調査や資料収集を実施してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である2023年度の研究実施計画としては、引き続き上記で述べてきた3点を予定している。 ①については、渋沢栄一に加えて、出光佐三、松下幸之助、稲盛和夫の人本主義経営研究を深化させ、さらに経営共同体理念を有する付加価値会計からのアプローチと同時に戦後の日本的経営の基盤を形成してきた日本生産性本部を中心とする生産性運動の果たしてきた役割を評価し、探究する。生産性運動は、人間尊重を理念に「生産性運動の3原則(雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配)を掲げ、高付加価値経営をめざして展開されてきた。そして現在では米国の主要企業の経営者団体であるビジネスラウンド・テーブルやダボス会議などステークホルダーを重視する企業観が欧米企業でも広がってきており、人本主義経営が重要な役割を演じようとしている。 ②については、2023年度は中国政府のゼロコロナ政策が転換されたことによって、集団免疫の効果が発揮されたようであるが、非感染者や高齢者には新型コロナの感染の恐れが残っており、さらに中国の「反スパイ法」の強化により、中国企業の訪問調査にはリスクが大きくかなり難しいと考えている。そのため本年度はこれまでの中国企業の調査と研究、および中国の人本主義経営に関する文献研究をベースにした総括作業に重点を置く予定である。 ③についても、3年間に及ぶ新型コロナの影響により、当初研究対象として考えていた企業の経営状況も厳しくなり、実証研究などのように企業との交流を深め、企業側に負担を掛ける研究は困難になってきた。そのためこれらの研究は、対象企業を変更し、私が常任理事を務めている「人を大切にする経営学会」の会員企業を中心にしたインタビュー調査を引き続き実施し、中小企業の人本主義経営と会計の意義と特徴を研究し、本研究の総括をすることにしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で予定していた海外出張および国内の出張の1部を取り止めたため、研究期間の1年間の延長を申請した。延長期間における助成金の使用については海外出張を実施せずに、国内の企業インタビューと文献・資料収集に支出し、本年度が最終年度であるため、研究の総括作業に入っていく。
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Research Products
(7 results)