2019 Fiscal Year Research-status Report
「辺境」と「郊外」の原爆被災――被爆後・戦後長崎の都市社会学的研究
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19K02042
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山口 響 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 客員研究員 (80828707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 長崎 / 浦上 / 原爆 / 都市空間 / 郊外 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度にあたる令和元年度は、予備調査として、基礎的な文献の調査・収集に努めた。対象時期は、戦前・戦時期から占領期を中心とした。 本研究では、原爆被災の中心であり、かつ、長崎市の「辺境」としての位置を長らく占めていた浦上地区が、長崎市全体の都市構造とどう関係しているのか、原爆被災はその関係の変容にどのように絡んでいるのかを検討することを目的としている。 空間論の側面からすれば、「長崎」(旧市街)と「浦上」の二重構造論、すなわち、長崎に対して辺境に位置し、さらにカトリックが集住する浦上が、歴史上一貫して長崎から差別されてきたとの見方が従来は支配的であったところ、本研究ではこれを部分的に修正することをめざしている。他方、時間の側面からすれば、原爆被災が長崎の歴史に断絶をもたらしたというよりも、むしろ、戦争が社会に与えた影響を、戦前・戦時期から戦後期にかけて連続する側面に着目しながら把握する「貫戦史」の視角を取ることになる。 本研究では、浦上地区における戦前・戦時期からの「郊外」化(工業地区・住宅地区・文教地区としての開発)のプロセスが、原爆被災のインパクトによって停滞を余儀なくされるのではなく、むしろ加速していく側面を強調する。 令和元年度においては、上記のような視角から、戦前・戦時期から占領期にかけての長崎市全体の都市開発をめぐる資料・文献の収集に努めた。とりわけ、国立公文書館において収集した、浦上の都市計画や路面電車軌道の延長をめぐる文書から明らかになったことは、戦時期の軍需工場進出に伴って進行した浦上地区の都市化の流れが、原爆被災による一時的な中断の時期を挟んで、占領期の比較的早い段階で復活しているということである。 しかし、これまでの調査では、浦上の開発と長崎市の産業構造全体との連関に関する把握が弱いため、その点の検討を令和2年度は主に進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は主に、研究の基礎となる文献収集・調査に努めた。一般的な文献調査に加え、DVD版『長崎民友』の新聞記事調査も開始している。 また、「20世紀メディア情報データベース」なども利用しつつ、国立国会図書館プランゲ文庫における占領期長崎の雑誌・新聞記事の調査に着手することができた。加えて、国立公文書館において、長崎の原爆関連や都市計画関連の文書資料をおおむね収集することができた。 長崎県立長崎図書館郷土課での新聞記事調査は、そもそも同課が建物新築に伴う仮営業状態にあることに加え、3月以降はコロナウィルス対策のために休館となり、調査が進められなかった。ただし、令和元年度全体の進捗状況に与える影響は、それほど大きなものではなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の調査では、国立国会図書館プランゲ文庫に占領期長崎の雑誌・新聞記事が予想以上に多く所蔵されていることが判明したため、令和2年度にはこの面の調査を強化する。その後に同館所蔵の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)文書の調査に移行するが、その際に入手できなかった資料については、米国立公文書館現地で収集することをめざす。ただしこれらの調査旅行は、コロナウィルス感染拡大の状況に左右されることが予想される。 長崎県内ではコロナウィルスの状況が比較的落ち着いているため、中断している長崎県立長崎図書館郷土課での郷土新聞記事収集が再開できるものと考えている。 研究視角の面からいえば、これまでの調査は、政治経済的な側面に偏っていた。したがって、令和2年度以降は、原爆被災をめぐる記憶・表象・文化の面、より具体的には、平和公園を中心とした慰霊と記憶の空間立ち上げのプロセスを追究し、そのことと、長崎の産業・都市計画との関係の検討に進んでいきたい。 また、原爆被災の記憶の問題に関わって、女性特有の被爆体験とその表象についての研究発表を5月に日本平和学会研究大会(東京)で行う予定であったが、秋に延期の見込みとなっている。
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Causes of Carryover |
資料調査のための東京滞在・移動費用の一部を、調査直後に行われ、コメンテーターとして招待されたシンポジウムの主催者が負担することとなったため、本年度の支出を節約することができた。また、文献複写費用が予想以上に低額に抑えられたために、令和元年度の支出全体としては、予定より約10万円少なくなった。 令和2年度は、資料調査及び学会発表のために東京へ少なくとも2回、資料調査のために米国に1回の滞在を予定する。また、その際に多額の文献複写費用がかかるものと考えられる。さらに、令和2年度も継続して関連書籍を購入する。これらを合わせれば、令和元年度から繰り越した額も含めて、令和2年度に使用する予定となる。
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Research Products
(1 results)