2021 Fiscal Year Research-status Report
欧州の先進事例からみた女性の農家継承と土地所有-オーストリアの事例より-
Project/Area Number |
19K02050
|
Research Institution | Jumonji University |
Principal Investigator |
大友 由紀子 十文字学園女子大学, 社会情報デザイン学部, 教授 (00286121)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中道 仁美 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (30254725)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 女性農業者 / 農家継承 / 農地相続 / ジェンダー / オーストリア / 一子相続法 / 農場譲渡契約 / 世代間関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国と同様に男子優先の世代継承を伝統とする家族農業であっても、オーストリアでは女性農業経営主が3割以上を占め、2008年の全国調査によれば、その87.5%が農場を所有する。本研究では、オーストリアの先進事例より、家族農業に強固なジェンダー非対称性を組み替えるための筋道を探る。 2021年度も長引くコロナ禍で海外調査が困難だったことから、2019年の予備調査で収集した文献資料をもとに2020年10月第93回日本社会学会で研究報告した内容を加筆修正して、大学紀要に研究ノート「オーストリアの農場相続における女性の地位」を執筆した。オーストリアの民法は均分相続だが、農場相続に関しては1958年の「一子相続法」を改正しながらその世襲を保護し、農場承継者を決める原則として、農林業の職業教育・訓練を受けた直系卑属を優先すると定めている。オーストリアでは女性農業者のための職業教育・訓練が用意されているため、農林業を職業選択する女子には農場相続への道が開けている。しかし、近年では非婚カップルや離婚が増加し、農場承継者のパートナーの農場相続へのアクセスは制限されるようになったことを指摘した。 2022年3月には入国制限が緩和され、一年延期されていた第4回ドイツ語圏における農村女性の国際大会が3月23~25日ベルンで対面開催となり参加した。オーストリア山岳・小農民協会(OeBV)の女性農業者リーダーから、オーストリアにおける女性農業者のための年金制度について情報を収集した。続けて3月27~30日には、ニーダーエスターライヒ州とオーバーエスターライヒ州で第1次調査を実施した。オーストリア農業会議所女性農業者組織に基幹的女性農業者の選定を依頼し、親の農場を承継した4名、夫の親の農場を承継した2名、計6名の農場承継の経験と次世代への農場譲渡の計画を聴取した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初計画では、予備調査として2019年8月末にオーストリア農業会議所でヒアリングならびに資料収集し、第1次調査として2020年3月末に女性農場所有者約10名へのインタビューを行い、2020年7月8~12日に開催される第15回世界農村社会学会(IRSA)ケアンズ大会にて研究報告。第2次調査として2021年3月末に女性農場所有者の単独所有と夫婦共同所有を比較調査し、2021年夏の第29回ヨーロッパ農村社会学会(ESRS)にて研究報告し、続けて補充調査して3年間の研究を総括する予定だった。 2019年8月の予備調査、9月末のIRSAケアンズ大会へのアブストラクト提出と2020年1月末の採択決定、ここまでは順調だった。続けて、2020年3月20日から4月1日の第1次調査にむけた研究倫理審査、3月24日オーストリア連邦機関農業経済・農山村研究所での女性農業者の土地所有に関する墺日ワークショップの企画まででCOVID-19パンデミックが発生し、調査研究の中断を余儀なくされた。2020年3月から2022年2月末まで海外渡航は不可能となり、IRSAケアンズ大会も2022年7月19~22日へ2年延期となった。 2022年2月からオーストラリアの入国制限が緩和され、IRSA2022ケアンズ大会の対面開催が決定した。延期されていた第4回ドイツ語圏における農村女性の国際大会が3月23~25日ベルンで対面開催となり参加し、続けて3月27~30日には、オーストリアで第1次調査として女性農場所有者6名へのインタビューを完了したものの、コロナ禍にあって、うち2名はリモートインタビューになった。 なお、第29回ESRSについては、COVID-19パンデミックに加え、ロシアによるウクライナ侵攻により開催の目途が立たない。このような状況から「遅れている」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究はオーストリアでの現地調査による実証研究であり、2020年3月から2022年2月末までの2年間はCOVID-19パンデミックで渡航不可能だったことから、2019-2021年度3年間の研究期間を1年延長した。 2022年4月にはオーストリアでの新型コロナウイルス感染は落ち着き、公共交通機関以外はマスク着用義務も解除された。そこで4月28日から5月8日に渡航し、第2次調査として女性農場所有者12名へのインタビューを実施した。 7月19~22日にはIRSA2022ケアンズ大会が対面で開催されるので、予備調査、第1次調査、第2次調査のデータを分析して英文報告する。この研究報告には、オーストリアの研究協力者Dr. OEDL-WIESER(オーストリア連邦機関農業経済・農山村研究所農村社会学部長)を招聘することから、それに先駆けて7月16日、十文字学園女子大学公開講座「オーストリア・アルプスの女性に学ぶ-ゆたかな田舎ぐらし」に彼女を講師に迎え、同時通訳をつけてアウトリーチする。 また、Dr. OEDL-WIESERは7月24日から8月9日にかけてJSPS外国人招へい研究者(研究課題「女性の活躍による家族農業の持続的発展と課題:日本とオーストリアの先進事例比較から」)として日本国内で学術交流する。この機会に、女性の農家継承と土地所有について国際的な視点から議論を深め、英文論文にして年末までにオーストリア農業経済・農村社会学会誌に投稿する。 7月でもビザ免除措置(短期滞在)の一時停止が解除されず、Dr. OEDL-WIESERのケアンズからの日本再入国が不可能だった場合、IRSA2022ケアンズ大会への参加は見送り、2023年6~7月に開催が延期されている第10回国際社会学会(ISA)メルボルン大会での研究報告にむけて取り組む。
|
Causes of Carryover |
前述のように、COVID-19パンデミックによって2020年3月から2022年2月末まで海外調査が出来ず、2020年7月6~10日に予定されていた第15回世界農村社会学会(IRSA)ケアンズ大会が2022年7月19~22日に2年延期され、2021年夏に予定されていた第29回ヨーロッパ農村社会学会(ESRS)は開催の目途が立たない。このため次年度使用額が生じた。 2022年3月21日から3月31日にかけて、第4回ドイツ語圏における農村女性の国際大会ベルン大会に参加し、続けてオーストリアにて、第1次調査として女性農場所有者6名にインタビューを実施した。旅費(2名)83万円、その他7万円を支出したが、2022年度に精算となった。 また2022年度は、4月28日から5月8日にかけてオーストリアへ渡航し、第2次調査として女性農場所有者12名にインタビューを実施し、旅費(1名)等約33万円を支出している。7月19~22日IRSA2022ケアンズ大会での研究報告に、学会参加費(695豪ドル×3名)約20万円、旅費(3名)約117万円、英文校閲料約10万円を支出する予定である。
|