2020 Fiscal Year Research-status Report
「社会学的無知学」の展開に向けた学説史的・理論的研究
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19K02066
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小松 丈晃 東北大学, 文学研究科, 教授 (90302067)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 無知 / リスク / 社会システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、東日本大震災以後の新しい社会学的課題としての無知や想定外を社会学的に分析するための理論的枠組みの構築を目指すことである。科学技術(のリスク(「一次的リスク」)に関与する組織(規制組織、事業者等)はしばしば、当該組織に対する事後的な批判と否定的評価の可能性という意味での「リスク」(「二次的リスク」)に対処するための戦略として「知らなかった(知りえなかった)」(想定外)との主張を積極的に活用する。この観点は、社会学的無知学の展開にとって重要である。そこでこの観点を補強するための成果として、まず、新自由主義的な潮流以後「評価国家」として論じられるような事態が定着したことで評価に関するリスク(「二次的リスク」)への対処が、組織にとって喫緊の課題となっていることを、G.ニーブらの議論をもとに整理し、評価の社会学を展開するための手がかりを見出した。また同様に、2本目の論文では、現代社会を「ハイパー他者指向」化した社会として捉えた上で、このパイパー他者指向が、対人関係のみならず各種組織とその環境に関しても妥当することを指摘した上で、評判管理(「二次的リスク」への対処)が当該組織の本来の業務を歪めてしまう可能性もあることを明らかにした。さらに、科学社会学に関する系統的なテキスト所収の論文では、社会学的なリスク論の展開過程をフォローし、科学的合理性と社会的合理性とを対比する発想の重要性を認めつつも、機能分化社会では「社会的」の内実をより明示的に分析する手続きが不可欠であることを指摘し、科学論の「第三の波」に連なる観点を提示しえた。と同時に、現代型リスクがシステミックリスクとしての特徴を有するがゆえに「無知」の部分を抱えざるを得ないことも指摘した。そして学会報告においては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って生じた道徳的非難(「犠牲者非難」)を「無知」との関連づけつつ分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年目にあたる本年度は、研究実績の概要で触れたとおり、公刊論文によって、無知の「積極的活用」という社会学的無知学の展開にとって重要な観点を(「一次的リスク」と「二次的リスク」というリスク論で用いられる区別と関連づけつつ)、明らかにできた一方で、無知研究(ignorance studies)の展開状況の整理が不十分なままであるため、本年度の研究実施計画を上回るほどの成果を出したとまでは言えず、「おおむね順調に進展」との評価が妥当である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、昨年度まで不十分なままに残されていた(社会学的な)無知研究の展開状況の整理をまず行い、この研究動向の今後の方向性を探る。それをふまえつつ、(これまで比較的研究蓄積が手薄であった)リスクの社会的増幅・減衰フレームワーク(SARF)の、とりわけ「減衰」のメカニズムを明らかにし、過去2年間の研究成果と総合させることで、「社会学的無知学」のための理論的枠組みを提示する。本研究課題の3年間にわたる研究成果は、図書として公刊予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が189,148円あるが、これはまず、当初、学会報告のための旅費として充当する予定だった額が、新型コロナウイルスの感染拡大のために学会大会がオンライン開催となったために不要となったこと、および、購入した洋書の一部が、見込額よりも安価に購入できたこと、などによる。このため、最終年度(三年目)に、これらを主として図書購入費に充当する予定であり、2021年度に合算して使用する。
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