2019 Fiscal Year Research-status Report
ひきこもり・若者支援システムの「合理的」設計思考の批判的検討
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19K02073
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
荻野 達史 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00313916)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ひきこもり / 若者就労支援 / 地域精神保健 / 保健所 / 財政効率主義 / 福祉政治 / フィールドワーク / 社会福祉基礎構造改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、この20年のひきこもりおよび若者支援政策をフィールドワークも交えながら批判的に検討するものである。この出発点には、とくに支援が難しい層についての「取りこぼし」が多く生じてきたものと考えられることがあった。その理由として支援に関わる目標・方法の問題と地域格差の大きさが注目される。こうした問題意識に即して初年度の研究実績は以下のようになった。 ①2019年3月に発表された内閣府による中高年ひきこもり調査の結果は取りこぼしの大きさを確認させ、とくに支援政策が開始されて以降に20~30代でひきこもっていた多くの当事者たちは支援機関と接触したこともなかった点が注目された。②支援政策の出発点では地域精神保健の枠組みが強調されたが、日本公衆衛生協会の近年の調査結果も参照すれば、一定の取組みを行っている保健所は全体の3割程度であった。これは支援の地域格差を考える上で重要な点である。③その背景には、1994年の法改正によって保健所の数は約25%減少し、常勤職員数も同様に減少しつつ、担う業務は増加の一途を辿っていることがある。後発の問題であるひきこもりに人員や時間を割くことが困難な構造が存在した。④ただし、複数地域でフィールドワークを行ってみると、地域ごとの精神保健への取組みの歴史、あるいは支援スキルをより密に学べる民間支援機関の存在等によって、ひきこもりへの取組みに差異が生じていることが窺われた。 ⑤支援の受託機関において問題となってきた狭義の就労目標に関わる成果主義や短期的なアセスメントの重視、あるいはスタッフの身分的不安定性については、財政効率主義が大きく関わっているが、この点はより広く、日本における「福祉政治」の歴史や90年代末に行われた社会福祉基礎構造改革、介護保険制度の導入といった社会保障・福祉全般に関わる文脈に関連付けながら検討していく必要が文献研究からも確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールドワークについては、2020年2~3月に予定していた調査(岩手県内の複数保健所での聴き取りなど)が新型コロナウイルス感染拡大のために不可能となり、その点では遅れも出ている。 しかし、一昨年度から開始している調査結果も合わせつつ、むしろこれまで文献研究的にも進めてくることのできなかった地域精神保健も含めた公衆衛生領域の問題や、さらにそれらの枠組みを形成した福祉政治史的問題についての検討、あるいは介護保険制度などとの方法的・思考法的通底性の考察などを進める結果となった。 そのため、総体としてみれば、今後可能になるであろうフィールドワークに対しても有意義な背景知識やアイデアが拡充された面もあり、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当面、新型コロナウイルスの状況によってフィールドワークが困難である状況が予想されるため、福祉レジーム、福祉政治、あるいは地域精神保健等についての歴史的・国際比較的研究について渉猟しつつ、ひきこもりや若年者就労支援といった問題をこれまでの自他の研究とは異なる視点から捉え分析することとしたい。 当初の研究計画より、こうした文献研究に重点をシフトする必要もあるが、すでに20年近く集積してきたフィールドワークの各種データも歴史的資料として投入し、合わせて検討することで、フィールド・データについては補えるところもあるものと思われる。 社会調査については、オンラインでの聴き取りも技術的には可能と思われる。ただし、とくに保健所については状況が収束するまでは関係者が忙殺されているため、きわめて困難であることも覚悟しなければならない。そのため、公衆衛生に関わる機関や行政スタッフに対するアプローチは当分行わず、民間支援機関などで必要な情報を収集していくことを考えている。
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Causes of Carryover |
2020年2~3月に予定していたフィールドワーク(岩手県における保健所での聴き取り調査など)が、新型コロナウイルス感染拡大のために不可能となった。そのため、文献・機材などの購入に充てたが、2263円の残額が生じた。この残額は次年度の文献購入に使用される予定である。
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