2021 Fiscal Year Annual Research Report
ひきこもり・若者支援システムの「合理的」設計思考の批判的検討
Project/Area Number |
19K02073
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
荻野 達史 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00313916)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ひきこもり / ひきこもり支援 / 地域格差 / 政治改革 / 地方分権改革 / 自治体 / 歴史性 / 地域特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は新型コロナ感染拡大のため現地調査型研究から、支援機関が多くの当事者やその家族と繋がることなく「取りこぼし」を生じさせてきた歴史的経緯の検討を中心に据えることとなった。この「取りこぼし」について、研究代表者は支援の地域格差にとくに注目した。2021年度においては、下記の3点について検討を行った。 まず、地域格差の数量的な把握を試みた。一つの指標として、ひきこもり地域支援センター(県・政令指定都市でサテライト含め現在79箇所設置)の2020年度の相談件数(電話、来所、訪問の合計件数)を用い、人口比を算出した。これは相談体制や広報の水準をある程度反映したものと考えられるが、最上位と最下位では実に99倍の差が生じていた。 次に、地域格差の構造的背景として、90年代後半以降のひきこもり問題化とほぼ同時期に進行した「地方分権改革」の問題について検討した。機関委任事務制度の廃止に象徴されるように国内一律の施策遂行が弱まると同時に、税源の移譲もありつつ地方交付税の大幅削減などによりむしろ多く地方財政を圧迫し、保健医療福祉部門サービスを不安定化させた。このことは基礎自治体の合併を促すことにもなり、各自治体において新たな保健福祉課題に取り組むことを困難なものとしたことが十分推測される。 最後に、この環境下でも独自的にひきこもり支援を展開してきた自治体もあり、これがいかなる要因によるものであるのか幾つかの事例について文献資料およびインタビューにもとづき検討した。仮説的知見をごく簡略に示せば、①とくに困難な対象に対する支援経験の蓄積が地域行政に存在すること、②地方中核都市のベットタウン的存在でもあり、その首長の意向も大きく影響するが、産業振興以上に福祉政策に力点を置く地域という条件があること、③比較的小規模な地域で保健福祉機関や民間団体にイニシアティブを発揮する人物がいることが挙げられる。
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