2022 Fiscal Year Research-status Report
Basic Study on Political Function and Influence of Urban Devolution System of Cities in United States
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19K02081
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
前山 総一郎 福山市立大学, 都市経営学部, 教授 (80229327)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 都市内分権 / まちづくり協議会 / 社会サービス / ネイバーフッドカウンシル / シアトル / タコマ / 自治 / 住民自治組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は,「米国諸都市のネイバーフッドカウンシルが『都市政策と都市ガバナンスに与える実際的影響力とその機能』の実相を解明しようとしている。 2019年度には、関連自治体の「法規」・要項等資料についての入念な調査,また市の政策意向などについての調査を実施した。他方、2020年度と2021年度には、コロナ禍のため現地調査ができなかった。ただし、2020年度には、コロナ禍ではあったがオンラインでのヒアリング調査を通して,「コロナ禍でのホームレス問題にかかわる,ネイバーフッドカウンシルの対応と市自治体の政策」の事象を通して,自治体の政策形成とネイバーフッドカウンシルの関係性と都市ガバナンスへの影響を明らかにした。2021年度には,「ネイバーフッドカウンシル」と法制度上類似である,公共住宅に設置される「レジデントカウンシル」という法定住民組織との比較検討を,米国の実践者・研究者O.Duran氏とともにおこない、比較を通じて、都市内分権の特質が浮かびあがらせることとなった。 本2022年度には、コロナ禍の下降傾向を得て現地調査を実施した。タコマ市のコミュニティ振興の担当者(V.Laurin氏)にヒアリングする機会を得て、コロナ禍でのホームレス問題と都市内分権のかかわりを確認した。さらに、シアトル市のコミュニティ振興局の局長(S.Morningstar氏)および部局スタッフらへのヒアリングを実施した。シアトルでは、2016年に都市内分権制度の廃止を断行したところであることから、都市内分権が廃止された場合と、タコマ市、ロサンジェルス市やまた日本各地のまちづくり協議会という都市内分権制度が運用されている場合との対比を念頭に調査をおこない、とりわけ、都市内分権制度の廃止がどのような脈絡でなされ、可能となったのかを探った。これらにかかわる成果については、論文2編にて刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本2022年度には、コロナ禍の下降傾向を得て、ようやく現地調査を実施できるに至り、大きな成果を得たと捉えている。第一に、タコマ市のコミュニティ振興の担当者(V.Laurin氏)にヒアリングする機会を得て、コロナ禍でのホームレス問題と都市内分権のかかわりを確認することを得た。さらに、シアトル市のコミュニティ振興局の局長(S.Morningstar氏)および部局スタッフらへのヒアリングを実施することが可能となり、「都市内分権制度の廃止がどのような脈絡でなされ、可能となったのか」の問題、さらに「都市内分権制度がない場合(ないしなくなった場合)に、どのような代替のしくみや動きがありうるのか」の問題について、実際の状況に基づいての知見を得ることとなった。 これらのことは、これまでの日本ではほぼなかった知見であることから、ネイバーフッドカウンシルの、また都市内分権のダイナミクス(動態相)の把握にとって大変に大きなステップであると捉えている。当初の2019年度の関連自治体の「法規」・関係の要項等資料についての入念な調査を土台として、そのうえで2020年度のホームレス問題を核としての、自治体の政策形成とネイバーフッドカウンシルの関係性や都市ガバナンスへの影響の研究、そしてさらに2021年度における類似の法定住民自治制度(resident council)からの都市内分権制度というものの照射をおこなってきているという形で、それまでの3年間でコロナ禍の不利な状況の中でも懸命にステップを踏んでの研究計画が進められてきたわけであるが、本2022年度は、これらの成果があったからこその上に、都市内分権のダイナミクス(動態相)の存続如何といういわば本質的な問題にアクセスすることができたと捉えている。 以上から、おおむね順調に進展していると捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年からの、実際のネイバーフッドカウンシルの現場への参加をおこないつつ、関連自治体の資料の調査、社会的課題への対応にあっての自治体およびネイバーフッドカウンシルの容態(コロナ禍下でのホームレス問題)、法制度上類似性のある法定住民自治組織との比較検討、「都市内分権制度自体を問う」ことの問いと検討(ネイバーフッドカウンシル制度廃止という途絶の問題)を行ってきた。2023年度は、上記の成果を、日米において発信し問うてゆきたい。 2023年5月に開催される全米コミュニティ協会(Neighborhoods,USA)において、米国諸都市の都市内分権制度「ネイバーフッドカウンシル」の、政策とガバナンスにかかわるダイナミクスについて、研究成果にもとづいて発信する。 とりわけ、研究成果を援用して、合意プロセスを重視する米国の都市内分権制度としてのネイバーフッドカウンシルと、社会サービスに力点を置いた、日本の都市内分権制度としてのまちづくり協議会についての、社会的位相の違いについての議論を発信し、深めることとしたい。(この点、J.ベリーらにより提起され、ネイバーフッドカウンシルにつき一般化している「民主制論」(市民参加の器の側面を強調する視点)の制約を越えることの提起となると考えている。) また、それに基づき、本年を含めて5年の研究成果の理論化を取りまとめたい。とくに、毎年、毎年度の成果を刊行しているが、それらを集約して総まとめするものとしてのとりまとめを論文刊行などの形で行いたい。
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Causes of Carryover |
2021年度にコロナ禍のため使用できなかった米国調査の旅費の額が、そのまま継続されて2022年度に積み残された形となり、米国調査を実施したが、過年度から積み残された形で消化することとはならなかった。 ただし、その予算額は本研究にとって現時段階で極めて貴重なものであることから、2023年度に、理論化の総まとめと、日米においての研究の発信に用いたい。とりわけ、2023年5月に開催される全米コミュニティ協会(Neighborhoods,USA, テキサス州エルパソ大会)において、米国諸都市の都市内分権制度(ネイバーフッドカウンシル)の政策・ガバナンスのダイナミクス(動態相)にかかわる新たな視座として研究成果にもとづいて発信することのためと、理論化のとりまとめをおこなうための予算として有効に大切に使いたい。
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