2019 Fiscal Year Research-status Report
Behavioural Change and Citizenship: Policy Analysis on Welfare Reform in the U.K.
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19K02085
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
平野 寛弥 目白大学, 人間学部, 准教授 (20438112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会政策(social policy) / シティズンシップ / 行動変容 / ユニバ―サル・クレジット / イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年のイギリスの社会政策を分析し、社会的シティズンシップの変容を明らかにするとともに、人々の行動変容を促す政府の戦略と手法(行動変容アプローチ)がシティズンシップ、およびその主体である人々のエージェンシーに与える影響を考察することにある。 そのため、初年度である2019年度には、社会的シティズンシップの変容に関する文献の検討を行うことにした。また、当初は2020年度に予定していた現地調査について、年度内に長期でイギリスに滞在する機会を得たため、前倒しして約1ヶ月にわたり現地での調査活動を実施することにした。 以上の目的と研究実施計画に沿う形で研究活動を行なった結果、以下の2点の成果を得た。 第一に、先行研究のレビューを行い、2度の学会報告と複数回にわたる研究会での報告、さらには共同研究者との共著で出版する書籍に収録される論文を執筆した。具体的には、近年のイギリスの社会政策の動向、特に2010年代の福祉制度改革とそれが人々の社会的シティズンシップ(生存権を含む社会的権利の保障状況)に与えた影響について先行研究をレビューし、福祉社会学会と社会政策学会で報告を行った。あわせて、ヨーロッパの福祉レジームとシティズンシップの比較研究を行ってきた研究会のメンバーで書籍を共同執筆(2020年9月刊行予定)した。 第二に、現地調査から、福祉受給者(ユニバーサル・クレジットの受給者)の生活を取り巻く状況と、彼らに対する就労支援の現状について貴重なデータを得ることができた。2020年2月から3月にかけてイギリスのリーズに滞在し、市内及び近隣都市の就労支援団体や地方自治体の就労支援担当部局、および職業安定所を訪問して職員にインタビューを行い、就労支援の詳細と直面する課題について貴重な情報を得ることができた。また、現地で活躍する複数の研究者にも面会し、意見交換を通じて、新たな視座を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度である2019年度は当初、先行研究の検討を中心に行う予定であった。しかし、その作業が比較的円滑に勧められたことに加え、現地での長期滞在の機会(University of Leedsにvisiting fellowとして1ヶ月滞在)を得たことにより、計画よりも前倒しで現地調査を行うことができた。具体的な進捗状況としては以下の通りである。 まず近年のイギリスの社会政策の動向に加えて、2010年以降の保守党政権下で進められてきた福祉制度改革の内容とその結果導入されたユニバーサル・クレジット(universal credit)の詳細について、先行研究のレビューを行い、学会報告や共同執筆した書籍という形で公表した。 また社会に対する実際の影響を把握するべく、2020年2月から3月にかけて、約1ヶ月にわたる現地調査を行い、就労支援団体や地方自治体、さらには研究者へのインタビューを実施した。こうした調査活動により、現在のイギリスにおける生活保障の状況や、保守党政府がイギリス市民(とりわけ福祉受給者)に求めるシティズンシップの全体像について詳細な情報が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、引き続きイギリスの社会政策の動向を追跡し、その把握に努める。とりわけユニバーサル・クレジットはいまなお完全な導入が達成されないどころか、先行きも不透明である。その理由としては旧制度からの移行を拒む受給者が多いことが挙げられるが、受給者がなぜ移行に消極的なのかについても明らかにしていきたい。 ついては2019年度に引き続き、2020年度も現地調査を実施したいと考えている。しかし、現在世界各地で猛威を奮っている新型コロナウイルス(COVIDー19)の感染拡大の影響で、海外渡航及び現地での調査活動が極めて難しい状況にある。そのため、感染状況が改善されない場合には、すでに得られたデータの分析から研究論文や書籍の執筆を進めるとともに、随時更新される先行研究及び関連研究の知見を積極的に吸収することを優先したい。その意味では、当初の研究計画に大きな変更を余儀なくされる可能性は否定できないため、今後の状況の悪化によっては今年度のみならず、来年度以降の研究計画を再設定する必要がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額に計上された72円については端数であり、それ自体としては今年度において有効活用することが困難なため、むしろ次年度に繰り越し、次年度の交付額と合わせて使用した方が有効に活用できると判断したため。
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