2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K02090
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドメスティックバイオレンス / 男性性ジェンダー / 臨床社会学 / 加害者臨床 / 子ども虐待 / 家庭内暴力 / 養育者支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画において2021年度は最終年度として位置付けていた。しかしコロナ禍によりグループワークで使用する予定の会場が使えなくなった(2021年4月から6月)。2020年度も同じく予定していたナラティブデータがコロナ禍により収集できなかったことの影響もあり、2022年度へと補助事業期間延長とした。第3年度となる最終年度の課題は次のように予定していた。①男性性と家族システムの双方にかかわる変化の総体を記述し、考察と分析をくわえる。②これらの過程を男性性ジェンダー暴力として考察する。③社会制度としての脱暴力への臨床社会学的な実践(受講命令制度)の構築について基礎的な知見を得るための研究としてまとめる。これらの大前提として、虐待する父親のグループワークを開催してデータを収集する研究計画としていた。年に24回開催予定が18回分となったが、①と②については予定通りすすめている。2021年度までの成果を引きつぎ、暴力を振るう男性のナラティブデータ、グループワークの参与観察、ひとりひとりとの面談調査を重ねる過程で、「暴力と加害のナラティブ」が層を成しているとの分析をすすめている。とりわけ暴力を認めることと加害の引き受けは距離があり、このあいだを埋める加害者臨床を展開すべきことについての考察を深めてきた。そのあいだにあるものは、男性性ジェンダー作法、暴力の文化であると想定している。これは2021年度に着眼した新しい視点である。③については公共的課題でもあるので、関連する行政組織(内閣府と厚生労働省)の委員会で意見を述べ提案をすることができた。また、これら省庁の調査研究事業にも関与し加害者臨床の制度・政策構築や虐待とDVの関連についての基礎的なデータを収集する役割を果たしてきたが、それは本補助事業の成果に基づいている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はこれまでの研究成果を学会で発表した。アジア犯罪学会で、家族再統合実践にかかわり、本事業で調査をしている家族が4年振りに家族再統合となった過程を調査し、その実践指針にファミリーカンファレンシング方式を提言し、実装したことを報告した。これはもちろん一事例であるが、①長い事前の準備(1年間)、②地域において当該家族に関わる脱暴力支援者による月例ミニカンファレンス開催、③子どもの権利条約にある「子どもの最善の利益」の視点からの論点整理、④家族再統合となる最終局面でのカンファレンスの開催と続けた。これを支えるケースセオリーに関して専門的知見を提供し、実装に備えることができた。これは本補助事業で得た知見に基づいている。また、このアジア犯罪学会の報告は、日本における治療的司法の概念の実践的研究と位置付け事例を理論化して報告したこともあり、臨床社会学から犯罪学への橋渡しをすることができた。また、社会病理学会、司法福祉学会のオンライン大会でも、それぞれ成果を発表した。社会病理学会では刑事司法は社会問題の解決にどのように関わるのかという企画を立てた。司法福祉学会では暴力と男性性ジェンダーの関連について加害者臨床グループワークの考え方を示した。年次的に計画している加害父親のグループワークを確実に実践し、そこでのナラティブをデータ化し、「男性性と暴力の臨床社会学的研究」という研究課題にそくして報告するという研究の循環をつくることができている。その過程で、①治療的司法の概念とそれを可能にする治療的サークル(治療共同体)の役割からのグループの分析、②加害者臨床論としては暗黙理論を中軸にしたナラティブセラピーの体系化、③日本型の加害者臨床に資するファミリーカンファレンシングの開発と実装として成果が結実しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の落ち着き具合をみながら暴力と加害に関するナラティブデータを収集する。年間24回のグループワークを予定している。この様子を録音・筆耕し、過年度までの考察の成果に接ぎ木していく。法と心理学会、社会病理学会、対人援助学会等を想定して研究発表を行う。この研究課題への社会的関心は高く、論文執筆依頼、公的組織での意見表明、地方公共団体からの加害者臨床実装依頼等があり、研究課題の成果を活かすことができるようにエフォート管理のもと、整序して応答していくこととする。それらの成果をまとめ上げながら、全体としては研究の総まとめの年度と位置付けて取り組む。 研究目的として掲げたこととの関連では、①公共政策としての親密な関係性における脱暴力対策と加害者臨床が必要なことの社会的提言の効果として、暴力の被害者支援団体においても加害者対策が必要であることのミニマムな合意をつくりつつある。それは「被害者支援の一環としての加害者対応」という考え方である。この点をさらに具体化していくこととする。②その理論的根拠となる概念を精緻化する。「治療的司法・正義」、「ハームリダクション」、「加害者臨床」「男性性ジェンダー問題」「暗黙理論」「関係コントロール型暴力」等の重要な基礎概念の提示である。③社会実装を可能にする、とりわけ地域における実装のデザインについてグループワークを開催している自治体の経過をモデル化する。国際的には常道となっている脱暴力プログラム受講命令制度であるが、グローバルな動向をローカルなものとしていく理論的方策を打ち立てていく。2022年度は最終年度であるので、「男性性暴力についての臨床社会学的な研究」の総まとめとなるようにこれら諸点を統合していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりデータ収集の計画が進捗しなかったため。グループワークの録音が30回分あるのでその筆耕費用として使用する予定である。また、グループワークの進行補助に関わる心理士への謝礼としても使用する。
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