2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K02090
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドメスティックバイオレンス / 男性性ジェンダー / 臨床社会学 / 加害者プログラム / 子ども虐待 / 家庭内暴力 / 男性問題 / 暴力 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はコロナ禍により主たる取り組みである虐待親向けのグループワークが実施できなくなり、2022年度へと補助事業期間を延長した。2022年度は順調にグループワークを実施した。予定通り、月2回、12か月、合計24回開催できた。2022年度は並行して過年度実施分も含めてグループワークの分析を進めてきた。研究計画の最終年度では、男性性と家族システムの双方にかかわる変化の総体を記述し、考察と分析をくわえることとした。虐待家族の場合は家族再統合計画が進行していることもあり、伴走するケースワーカーとの連携が不可分となる。コロナ禍は家庭内暴力を増加させたこともあり、多忙を極める児童相談所の児童福祉司や児童心理司との協働にもとづく調査は至難であるため、事例検討会を開催することや適宜スーパーバイズを行い協働の日常化という工夫を施した。虐待家族のケースワークでは後景に退く傾向のある父親へのアプローチを本研究はメインにしている。現在の児童福祉実践においてはあまり重視されない父親への脱暴力支援と家族システムの動態について注目することを重視したケースマネジメント論に基づいて家族事例分析を行なった。また、社会制度としての脱暴力への臨床社会学的な実践(受講命令制度)の構築について基礎的な知見を得るための研究としてもすすめている。こうした視座にもとづき、20家族程度の事例をまとめることができた。2021年度までの成果を引きつぎ、暴力を振るう男性のナラティブデータ、グループワークの参与観察を重ねる過程で、加害のナラティブデータをまとめてきた。男性性ジェンダーに伴走するナラティブの進め方、男性性に随伴する暴力の文化を言語化することにも注力してきた。さらに、公共政策に関わる課題についても関連する行政組織(内閣府と厚生労働省)の委員会で意見を述べ提案をすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始時より、途中コロナ禍で中止した時期をのぞき、1年間に24回のグループワークセッションを3年分、合計72回分の記録が蓄積されている。総時間数は150時間近くになる。グループワークはあくまでも任意参加なので、継続した家族の変化を研究するにはケースワーカーとの協働が不可欠である。そこで、一連の家族変動のシークエンスがわかるようにするためにグループワークの記録と考察だけではなく、典型的な事例を対象にして家族関係の変化が時系列で理解しやすいような家族臨床社会学研究の工夫を行なった。合計で20家族程度となっている。その調査に値する持続的観察が可能な、つまり家族システムの変化の動きが観察できるような事例をピックアップして事例検討会を工夫して連携の質を高めた。これは科研チームの主宰とし、担当するケースワーカーの協力を得て、児童相談所職員の資質向上につながるように工夫した。また、虐待による介入の後、DVもあり、子どもの安全を考え児童養護施設に入所した後、さらに家族再統合に向かった事例、里親あるいはファミリーホームでの代替え養育にかかわるフォスタリング家族の事例、代理ミュンヒハウゼン症候群を疑われた家族病理性の高い事例、実父の性問題行動がある事例、性の境界設定が甘い親密な関係性の混乱している事例などを対象に、事例の類型化を試みることができた。これは虐待家族システムの形成のされ方と虐待の関係を問うことになり、多様な様態と介入の仕方の工夫が必要となる点を明確にすることができた。虐待加害と一括りにはできず、親密な関係性としての家族システムが宿す課題に即した介入後支援が要請される家族児童福祉への臨床社会学的な考察の基礎的データを集めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
地方公共団体からの家族臨床と加害者臨床の実装依頼があり、研究課題の成果を活かすことができるようにエフォート管理のもと、整序して応答していくこととする。それらの成果をも組み込みながら、2023年度は研究の総まとめの年度と位置付ける。研究目的として掲げたこととの関連では、①公共政策としての親密な関係性における脱暴力対策と加害者臨床が必要なことの社会的提言をおこなう。暴力の被害者支援団体においても加害親対策をもとにした家族支援の臨床社会学が必要であることのミニマムな合意をつくることとする。それは「修復的な家族再統合の臨床社会学理論の構築と実践」という考え方である。②その理論的根拠となる概念を精緻化する。「治療的司法・正義」、「修復的な家族臨床」「ハームリダクション」、「加害者臨床」、「男性性ジェンダー問題」、「暗黙理論」、「関係コントロール型暴力」等、過年度まとめにおいても整理してきた重要な基礎概念の体系化を試みる。なかでも、③社会実装を可能にする、とりわけ地域における実装デザインについてグループワークを開催している自治体(京都府、大阪市、大阪府、堺市)との協働の経過をモデル化して提示する。国際的には常道となっている脱暴力プログラム受講命令制度であるが、グローバルな動向をローカルなものとして具体化していく理論的方策を打ち立てる。さらに、DVとの関連のある事案が多いこともあり、これらを複合暴力のある家族として再把握し、親子関係に終始しがちな虐待への介入後支援の幅を広げ、夫婦関係・男女関係が宿す暴力も視野にいれてケース対応できるようにする。2023年度は最終年度であるので、年度毎にまとめてきた家族システムとかかわる男性性暴力についての臨床社会学的な研究の総まとめとなるようにこれら諸点を統合していく。
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Causes of Carryover |
グループワークがコロナ禍で開催できなかった時期、家族ケースワーカーとの協働が途切れたことがある。もともと強制的なグループワーク参加ではないので、空白分をどう処理すべきかの検討に時間を要したことがある。それは家族への継続的な事例マネジメントと本研究をとおしたグループワークの効果の検証ができにくいという難点をもたらしたからでもある。これを補うために、里親家族・ファミリーホームを対象にして親と子の双方の問題行動への対応も視野に入れたこと、児童養護施設入所中の家族再統合の進め方への研究など、新しいタイプの事例検討の手法を試みてきた。これらを当初計画に織り込んで考察と分析を加えることに時間をかけることとした。こうした研究対象の拡大は、社会的養護・養育との連携において家族の修復を位置付ける基礎となるので、継続することとした。複合的な問題を抱える家族臨床には有益だと判断したことから次年度に使用額が生じた。具体的には、グループワークの継続のための研究補助者への謝金支払いのために研究費を使用する。さらに150時間分にまで蓄積してきたグループワークの音声記録のテキスト化費用についても使用する予定である。
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[Book] 災厄を生きる2022
Author(s)
中村正(分担執筆)・村本邦子編
Total Pages
300
Publisher
国書刊行会
ISBN
9784336073907
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