2021 Fiscal Year Research-status Report
教育における差異のジレンマからの脱却に向けた不平等形成スタンダードの脱構築
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19K02099
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
二羽 泰子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (20802507)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 差異のジレンマ |
Outline of Annual Research Achievements |
セネガルでの調査を予定していたが、コロナのため今年度についても渡航を断念し、文献調査を継続した。今回は、「マイノリティの不平等を解消するために、その属性のカテゴリが強調されることによって、逆にマイノリティのスティグマを強化し不平等を再生産する」というジレンマが起きていない地域と起きている地域の比較を実施した。得られた成果は以下の2点である。 1点目は、ジレンマが生じている地域における不平等の解消へのアプローチが、起きていない地域と異なっている点である。起きている地域では、各マイノリティの不平等を認識すると、そのカテゴリに属する個人の人権の問題と捉え、当該カテゴリに属する者たちの人権を保障するための特別措置が検討されていた。この場合には、当該カテゴリへの支援の動きが高まることと並行して、カテゴリに属する者たちに対する批判のまなざしといったバックラッシュが生起しており、ジレンマが現れるというプロセスをたどっていた。一方、生起していない地域では、不平等の問題を認識すると、当該民族全体や、関連するセクターの問題と捉え、不平等を被っている個人の問題とは切り離す傾向があった。 2点目は、ジレンマが生起していない地域でマイノリティカテゴリが重視されるのは、西洋の援助の獲得・継続のタイミングだという点である。援助する組織のほとんどは、それぞれの組織やプロジェクトにおいて出すべき成果があらかじめ定められており、その枠組みに応じた成果を報告するように現地の人々に求めてくる。したがって援助を獲得・継続させるためには、援助者が強調しているカテゴリへの援助の必要性を証明できることが条件になる。そのため、援助者との関わりが強い現地の人々は、援助者に対する説明の場ではカテゴリを強調するが、現地の人々への説明ではカテゴリには言及しないといった使い分けによって、援助団体が持ち込むジレンマを回避していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
セネガルでのフィールド調査を通じてデータ収集する予定であったが、昨年度に引き続きコロナの関係で海外渡航が難しく、断念せざるを得なかった。したがって、文献調査については多くのデータが集まり分析も進めてきたが、当初予定していたフィールドのデータが皆無のままである。
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Strategy for Future Research Activity |
マイノリティカテゴリの変容に関するデータ収集のため、引き続きセネガルでの調査の可能性を模索する。ただし、感染リスク等を考慮すると、当初の想定の半分ほどの期間の渡航が限界であり、得られるデータも限定的になる見込みである。したがって、これまで行ってきた文献調査による分析を発展させ、学会発表等を通じて分析を深めることを中心に今後は進めていく。
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Causes of Carryover |
セネガルでの調査旅費として多くの予算を確保していたが、コロナの関係で海外渡航ができなかったため多くの残額が生じた。今年度はセネガル調査を可能なかぎり進めるが、セネガルの入国は未だ難しいため、場合によっては類似した調査が可能な代替国への渡航も検討する。それでも難しい場合には、国内在住の調査国出身者への調査旅費もしくは数名のゲストを招くための旅費や謝金として用いる予定である。
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