2021 Fiscal Year Research-status Report
大正・昭和期に緯度観測所を支えた岩手の女性所員たち
Project/Area Number |
19K02101
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
馬場 幸栄 一橋大学, 社会科学古典資料センター, 助教 (10757363)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 緯度観測所 / 天文学史 / 科学技術史 / 女性史 / 地域研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
緯度観測所で計算係を務めていた女性所員のご遺族よりアルバム1冊をお借りし、同女性所員に関する多数の紙焼き写真をデジタル化して詳細な調査を行った。また、国立天文台水沢VLBI観測所が所蔵する緯度観測所関連資料を参照しつつ、電話・手紙等を用いて女性所員のご遺族たちにリモートで聴取調査を実施した。結果、戦前から戦後にかけて緯度観測所気象課に計算係として勤務していた女性所員2名について、学歴、家族歴、緯度観測所に就職することになった経緯、職位、在職期間、退職理由等が判明した。彼女たちは尋常高等小学校を卒業すると同時に14歳という若さで緯度観測所に就職していた。その背景には、男兄弟がおらず自身が家名を継ぐ必要があったこと、姉妹が多かったためあるいは親が死去したため女学校へ進学せず働いて家計を支える必要があったことなどがあり、これまで一部で言われてきたように「花嫁修業として」就職したわけではないことが明らかになった。 また、緯度観測所初代所長・木村栄が女学校の校友会誌に寄稿した『女子の天職』というエッセイの一部が水沢高等学校において発見されたため、その内容を調査した。すると、木村は大正12年より緯度観測所において女性を雇用しつつも、同エッセイにおいては女性は外で働くべきではなく良妻賢母を目指すべきだと主張していたことがわかった。いっぽう、ある女性所員の証言によると、気象課長・池田徹郎(のちの緯度観測所第3代所長)は女性所員は結婚・出産しても仕事を続けるべきだと発言しており、所長たちの考えが時代とともに変化していったことが確認された。 これらの研究成果を広く発信するため、International Congress of History of Science and Technologyや日本天文学会等で研究発表を行ったほか、駿台天文講座において市民向けの講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の研究室がある東京都では令和3年度になっても依然として新型コロナウイルスが猛威を奮っていたため、感染拡大防止の観点から、国立天文台水沢VLBI観測所(岩手県)および緯度観測所関係者個人宅を訪問して実施する予定であった資料調査・聴取調査はすべて令和4年度に延期することとした。 かわりに、令和2年度に引き続き令和3年度も緯度観測所関係者からアルバム等の資料を送っていただき、それらを都内の研究室においてデジタル化することで、詳細な資料調査を行うことができた。また、一部の緯度観測所関係者ご遺族の方々から電話・メール・手紙で情報を収集させていただいた。そのおかげで、戦前から戦後にかけて緯度観測所気象課に勤務していた女性所員たちについて予想以上に詳細な情報を得ることができた。 さらに、国内外の多数の学会・研究会にオンラインで参加して研究成果を発信するとともに、他の研究者たちと積極的に情報交換や議論を行った。すると、天文学以外の分野でも日本の女性たちが計算係として活躍していたという情報が多数収集された。これにより、「計算係は女性の仕事」という性別職務分離は緯度観測所に特異な現象ではなく、日本各地で見られた現象であったことがわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者の研究室がある東京都は新型コロナウイルスの感染者が国内で最も多いため、他の地域への出張を伴う資料調査・聴取調査は控えざるをえなかった。この状況を打破するため、令和4年度は研究の拠点を比較的感染者の少ない地域へと移し、岩手県など他の地域での資料調査・聴取調査を部分的に再開することを検討している。 また、国立天文台水沢VLBI観測所のご厚意により、緯度観測所関連資料の保存修復・撮影に使用する保存修復用品・機器類等の大半をこれまで同観測所内に保管させていただいていたが、新型コロナウイルスの流行により同観測所へ頻繁に通うことが難しくなったため、現地の保存修復・撮影スペースはそのまま維持しつつ、令和4年度に設ける新しい研究拠点にも本研究のための新たな保存修復・撮影スペースを設置し、どちらでも同じ作業が行えるようにする計画である。 さらに、新型コロナウイルスの影響により以前のように岩手県において展覧会・講演会を開催することが難しくなってしまったため、かわりに岩手県の地方紙や世界に配信されている『国立天文台ニュース』を通して本研究の成果を広く市民の方々に還元してゆく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、令和3年度に予定していた資料調査・聴取調査・学会参加のための出張はすべてキャンセルせざるをえなかった。そのため令和3年度予算の大半を占めていた旅費がそのまま未使用となった。 いっぽう、緯度観測所所員のご遺族が送ってくださったアルバム等の各種資料を研究室でデジタル化するためのスキャナ・外付けHDD・画像処理ソフトが必要となり、予定外の出費(消耗品費)が発生した。その出費は旅費の未使用分の一部によって補ったが、それでも旅費の大部分が未使用のままとなったため、次年度使用額が生じた。 令和4年度は研究拠点を感染者が比較的少ない地域へ移すことにより、これまで出来なかった資料調査・聴取調査のための出張を再開する予定である。また同時に、緯度観測所関連資料の保存修復・撮影を行うための作業場を国立天文台水沢VLBI観測所だけでなく新たな研究拠点にも設置する予定である。次年度使用額はそれらの旅費および機材購入費・運送費等に使用する計画である。
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Remarks |
馬場幸栄「国立天文台前史 水沢緯度観測所の木村栄」駿台天文講座,第667回,2022年1月15日(招待講演).
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Research Products
(4 results)