2020 Fiscal Year Research-status Report
初期CATVの自主放送をめぐる思想と実践―メディアの考古学および民俗学の視座から
Project/Area Number |
19K02119
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
飯田 豊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (90461285)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | CATV / 自主放送 / ビデオ・アート / 中嶋興 / ビデオ・コミュニケーション運動 / ソーシャル・エンゲイジド・アート |
Outline of Annual Research Achievements |
CATVの自主放送はこれまで、「コミュニティメディア」「地域メディア」「パブリックアクセス」といった理念にもとづいて、その社会的異議が論じられる傾向が強かった。それに対して、本研究では2020年度、これまで等閑視されてきたビデオ・アートとの関わりを明らかにした。少なくとも日本では、CATVとビデオ・アートの結びつきはほとんど知られていないが、1970年代、小林はくどう氏、中谷芙二子氏、中嶋興氏といったビデオ・アーティストの第一世代が、全国各地に広がってきたCATVの自主放送に関心を向け、ビデオ・アートと市民表現のあいだを架橋しようと試行錯誤していた経緯を解明することができた。 アメリカでは1971年、オルタナティヴ・メディアのシンクタンク「レインダンス・コーポレーション」が『ゲリラ・テレビジョン』を刊行し、ビデオ・コミュニケーション運動が世界的に広がっていく起爆剤となったが、日本にも70年代、ビデオを社会的なメディアと捉えたアーティストグループが複数存在していた。美術史のなかでは、小林氏や中谷氏が主導した「ビデオひろば」が最も有名だが、手塚一郎氏が率いる「ビデオ・インフォメーション・センター(VIC)」、中嶋氏が率いる「ビデオアース東京」などが注目に値する。これらのグループは、いわゆる「ソーシャル・エンゲイジド・アート」の観点から再評価することもできるが、国家やメディア企業体に迎合することなく、地域の多様な関心を反映するビデオの制作や流通を啓発したという点で、メディア史の観点からも詳細に検討する価値がある。 2020年度はとりわけ、中嶋興氏に対する聞き取り調査を複数回にわたって実施するとともに、慶應義塾大学アート・センターが管理している中嶋興およびVICのアーカイヴを活用することで、CATVに関する先行研究が看過していた歴史的知見を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大の影響が懸念されたが、中嶋興氏に対する聞き取り調査を経て、慶應義塾大学アート・センターのアーカイヴ利用ができたことは、当初の計画にはなかったことであり、文献調査および聞き取り調査は順調に進展したと評価できる。また、慶應義塾大学アート・センターの企画で、中嶋興氏と手塚一郎氏らとのオンライン座談会に参加できたことも、想定外の収穫であった。 地方への出張、高齢者との面会を自粛せざるを得ず、CATV局のフィールドワークを進められなかったことを差し引いても、本研究課題の進捗状況は、当初の計画以上に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、CATVの自主放送の歴史に関する文献調査や聞き取り調査を完了した上で、1970年代におけるビデオ・アートの動向を補助線として、CATVの自主放送と、ビデオ・コミュニケーション運動やDIY文化との関係を明らかにする予定であった。だが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で聞き取り調査の難航が予想されたため、2020年度は、70年代のビデオ・アートに関する調査を先行して実施し、前述のとおり、期待以上の成果を挙げることができた。 したがって、今後は再び、CATVの自主放送の歴史に関する文献調査や聞き取り調査に重点を置くが、CATV局の現地調査、および対面での聞き取りは、いずれも困難が続くことが予想される。新型コロナウィルスの感染状況を踏まえつつ、無理のない範囲でフィールドワークをおこなうが、代替措置としてZoomを活用した聞き取りも試行的におこなっており、必要に応じてその対象者を拡大していきたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、フィールドワークや対面での聞き取り調査を自粛するなど、研究計画の一部変更を余儀なくされたため、次年度使用額が生じた。2021年度もしばらくは移動をともなう調査の困難が続くため、そのぶん文献調査を先行しておこなう予定であるが、延期したフィールドワークや聞き取り調査を追って実施することで、当初の予定どおり助成金を使用する。
|
Research Products
(4 results)