2019 Fiscal Year Research-status Report
地域特性を視座とする新たな提言のためのハンセン病療養所将来構想の比較研究
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19K02125
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
城本 るみ 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (60302014)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ハンセン病 / 療養所 / 地域特性 / 将来構想 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、これまでに訪問した療養所の特徴を比較検討する作業を始めた。 療養所の現状における共通点は、おおまかに以下のようにまとめられる。まず①いずれの療養所でも入所者の高齢化が進み、個別居住区から施設中央部付近につくられた「不自由者棟」で生活する人が増加していること。②ハンセン病特有の後遺障害を抱える入所者が多いため、一般の高齢者施設以上に看護師と介護士が連携し、特殊ケアを行う必要があること。そして③専従医師や看護師の不足が常態化しているために外部医療機関との連携が重要であり、そうした連携の窓口となるソーシャルワーカーやベテラン職員の存在意義も大きいこと。また④身体の不自由度が増した入所者が広大な療養所の敷地に点在しているより集合住宅やグループホーム形態で生活してもらうほうが、ケアを供給する側にとっては負担軽減につながるが、個別居住区を離れたくない入所者との間でどのように折り合いをつけていくかという潜在的な課題があること、の4点である。 一方で療養所間に差異が見られたのは、(a)療養所内における入所者とスタッフとの関係性、あるいはスタッフ間の役割分担や人間関係、また(b)後遺障害に対する特殊ケアの提供体制や外部医療機関との連携状況、の2点であり、この2点については今後さらに注視していくべき課題だと考えている。(a)については行為主体や立場をどこにおいて分析するかによって見えてくるものが変容すること、(b)のような医療体制の格差は所在地の地域経済や交通インフラと密接不可分であることに着目することによって、地域特性という視座が加味された将来構想の新たな知見につながるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハンセン病療養所が現状でどのような運営形態を中心としているかは将来構想の実現において重要な指標となるため、2019年度は文献研究による整理を進め、療養所ごとの運営形態のグルーピングを中心とする比較整理を行う予定にしていた。その結果、研究実績の概要にまとめたような整理ができたことで検討していくべき課題も明らかになり、今後の研究推進の方策も明確になったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は国立2か所、民間1か所の療養所の現地調査を計画している。国立は鹿児島の奄美和光園と静岡の駿河療養所である。離島の奄美和光園は島民のために外来診療を開放しており、地域に開かれた療養所としての成功事例といわれている。駿河療養所は傷痍軍人のために開所された、国立療養所の中でもっとも新しい療養所であり、これらの療養所の現状についてはぜひ理解したい。また駿河療養所と同じ静岡県に位置する神山復生病院は日本初の私立ハンセン病療養所である。私立ゆえの経営問題などを抱えつつ、現在は療養型病棟およびホスピス病棟を備えた病院として運営されており、これも療養所の新しい発展形態であるため訪問先としたい。 ただし現時点ではコロナウイルスの関係で出張が禁止されている状況に加え、入所者が高齢のため外部からの訪問禁止になっている療養所が多い。訪問ができない場合は、新たな資料入手につとめるとともに、現在手元にある資料に依って研究を続けていく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由): 既存の資料を用い、新たに更新したPCによって比較検討作業をしたため。 (使用計画):研究の推進方策に書いたように、2020年度は3か所の療養所(奄美和光園、駿河療養所、神山復生病院)を訪問し、それらの療養所の現状を比較検討する予定にしている。出張できない場合は、各療養所自治会に連絡をとり、これまでに発刊されている自治会史等の関連資料の入手につとめたい。
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