2019 Fiscal Year Research-status Report
社会的実践としてのアメリカ社会調査をめぐる概念・制度史的考察
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19K02128
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北田 暁大 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (10313066)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会学 / 社会調査史 / アメリカ社会学史 / 科学社会学 / 概念分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、基本的に、①国内において入手可能な外国語文献を中心に資料収集を行い、英米研およびドイツ語圏での社会調査の歴史研究の最新動向を追尾するとともに、②デュボイスのアトランタ大学での研究実践について、科学社会学的な視点から分析を行った。申請時に比しても英米圏での研究動向は充実の一途をたどっており、総体的な研究の方向性について必要な再検討を行うとともに、比較的研究蓄積の薄いデュボイスの教育・研究ネットワーク形成について議論を深化させることで、本研究プログラムの領域的・トピック的展開を試みた。 予定していたアトランタ大学、シカゴ大学、ケルン大学等での一次史料調査については、コロナ禍等の影響もあり、来年度に延期することとしたが、郵便・ネット等で新資料は十分に収拾できており、実査の際のテーマ限定を精細にすることが可能になったともいえる。 方法論的には、科学社会学の知見をエスノメソドロジー的な「概念分析」へと連接する作業を行い、マートン的な科学社会学を現代的視点から再構成することを試み、デュボイス研究等で経験的な研究の俎上にのせた。イアン・ハッキングの歴史的存在論(概念分析)とフーコー的な言説分析との異同といったテーマについても検討を進めている。とりわけ「社会調査」を社会学の対象とする場合の理論的・方法的問題についてはEMの知見を多く参照している。 総体的な理論的視座としては、マートン・ルーマンらの等価機能主義を経験的研究に活かすため、その理論的骨子を再構成するとともに、本研究プログラムに実装可能かどうかを検討した。概念分析・言説分析・機能主義と、経験的研究の有機的な接合を図る本研究の基礎地はある程度固まってきたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デュボイス/シカゴ学派の科学社会学的分析についてはある程度明らかにすることができた。 マートン・ノルムから敷衍したシカゴ学派の成功条件との対照という課題に本研究では取り組んでいる。つまり、 ①近代的な意味での自律した研究室・学部を持ち、②共同プロジェクト/個別プロジェクトとしての調査(social research)を基軸として、③安定的な財源にもとづき、 ④調査の参照点となる理論的概念(態度や状況、価値、人間生態学、同化サイクル等)を提示し、⑤学術の「界」としての自律性を担保する専門誌”American Journal of Sociology”の編集拠点となった、という知識社会学的条件である。 この条件群のなかでは、デュボイスは①については志半ば(アトランタ大の社会・歴史学部の発展に寄与したことは間違いないが、その運営は盤石なものとはいえなかった)、②については、シカゴと異なり人員は限定されていた(『フィラデルフィア』の調査者は実質的にデュボイス一人である)ものの、社会調査をもとにした経験的研究を生み出す、という点ではある程度の成功を収めていた。問題は③の財源である。この財源調達の弱さが、④(事実観察を重視した社会問題の社会学)、⑤アトランタ会議の運営に微妙な影を落としていたことは事実である。 ではなぜ安定した財源を確保することができなかったのか。「黒人だから」は実は理由にならない。ブッカー・ワシントンというトマスも及びがつかないほどの集金力を誇る教育機関関係者がいたからである。そこで問いは、なぜワシントンは潤沢な資金を得ることができたのに、デュボイスが十分な形でそれができなかったのか、という事柄に移行する。ここで考えなくてはならないのが、財団の慈善事業の資金投下規準の微妙ではあるが、ドラスティックな帰結を伴った変容である。この点を現在、シカゴ学派の形成とともに検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
「社会改良運動やソーシャルワークの流れをくむ「社会的」という概念がいかにして、社会学者をも巻き込み、社会保障法やニューディールにおける調査研究に繋がっていったのか」というリサーチクエスションについてはある程度目途を付けることができたので、以後「ドイツやフランスにおいて用いられる「社会的なものthe social」と異なる”social”、対義語として”liberal”を持つ欧州的用法ではなく、むしろ”liberal”と折り重なっていくようなアメリカにおける「奇妙な」概念の布置連関を読み解いていくことにより、日本にも影響を与えている「社会調査」および「社会学」概念の生成と、社会的機能をみていくこと」の作業を進め、最終的に、「社会と名指される集合的対象を、特定化し、その集合的状態の変化・改善を、何らかの統制された方法を用いて目指す社会的実践(social practice)としての「社会調査(social survey)の歴史・社会的機能を、19世紀末~20世紀半ばのアメリカ社会学、行政、財団の動向に照準して分析する」という課題を論文として組み立てていくこととしたい。最終的には「欧州出身の社会学が、なぜアメリカにおいて、どのような経緯で、ある時期まで財源的・人員的にもっとも発展することができたのか。他の可能性はなかったのか」という大きな問いに解答を与えることとしたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため予定していたアメリカ調査が困難となり、国内・ネットで入手可能な史料に基づき研究を進めた。今後は、資料のある諸機関の開館情報などを精査しつつ、アメリカ・ドイツにおける資料収集に努める。
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