2019 Fiscal Year Research-status Report
「8050問題」の実態調査およびライフステージに応じた効果的支援策の研究
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19K02130
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
川北 稔 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30397492)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 8050問題 / ひきこもり / 生活困窮者 / 社会的孤立 / 自立相談支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間の初年度にあたり研究課題を整理した。8050問題に関連する事件が連続したことを受けて、緊急的な社会的発信として『8050問題の深層』(NHK出版から2019年8月刊行)を取りまとめたことも研究課題の再設定に役立った。 深刻化する問題の背景として、福祉制度における(1)選別主義、(2)申請主義、(3)家族主義の壁が挙げられる。 (1)選別主義は支援の対象の限定を意味する。8050問題を幅広く理解すれば、人口の高齢化や雇用の劣化などに由来する社会的孤立の課題に行きつく。しかし若者の「ひきこもり」の長期化に問題を還元する議論も根強い。「ひきこもり」に限定した実態調査ではなく、公式統計などを根拠に議論の幅を広げる作業が求められている。 (2)申請主義は、本人が能動的に申請しなければ支援が受けられない福祉制度を指す。これを前提に、社会的に孤立している人であれば余計に、「本人の希望が示されていない」ことを理由に支援が差し控えられてしまう。行政の縦割り組織もこれに寄与し、意思の確認においても限定された制度の枠組みが前提される。これに対し伴走型支援においては、制度に合致しない本人や家族のニーズを拾い上げることが目指される。 (3)限界まで困窮するまで外部の支援を受けない価値観が家族主義である。ひきこもり問題に関しては、子どもの「自立」の目標を高く設定し、そこに達しないうちは家庭内で抱えることになりやすい。これに対し「依存先の分散としての自立」の理念は、早期に家族の負担を分散するうえで有効である。 こうした3つの壁およびそれに代わる理念を参照軸として個別の支援実践を探索することが今後の課題となる。なお当初の計画とは別に「ひきこもりと命の危険」をテーマとする質問紙調査を共同で実施した(2020年2月)。この結果の分析を端緒に、全国の自立相談支援窓口における有効な取り組みを探索したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したように、緊急的な社会的発信を契機として研究課題の整理を進めた。一方で、実際の相談窓口への調査はやや遅れる結果となった。コロナウイルスによる外出自粛も調査の支障となっている。 同じく概要に示したが、報道機関との共同調査によって全国の生活困窮者自立相談支援窓口を対象とした質問紙調査を実施したことは、当初の計画以上の進捗が期待できる点である。対象となる約1200か所の窓口のうち、暫定で約400か所からの回答が得られた。テーマはひきこもりと命の危険であり、40歳以上でひきこもり状態の人に関して「本人の命の危険」や「本人の死亡」に関する支援例を集めることを目的としている。8050問題に重なる事例についても相当程度の情報が集まることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」にも示したように報道機関との共同で実施した質問紙調査の分析に着手する。量的な側面について集計を進めるとともに、先進的な支援例について現地調査を含めて追跡調査を行いたい。 本研究全体の課題は「ライフステージに応じた支援」である。前述した調査では特に高年齢層の「命の危険」に焦点化し、孤立や困窮の極限における支援例に迫ることが可能となる。一方で、若年層などについては以下のような方策をもとに研究を推進したい。 まず、学齢期の不登校児童生徒に対する卒業後の支援に関して研究を進める。現在、複数の自治体において子ども若者育成支援の地域協議会に参加しているため、その関係者を中心に聞き取りを進める。 また、生活困窮者の自立相談支援窓口や地域包括支援センターを対象に、支援例の全数的把握を構想している。従来までの調査は代表的な支援例の抽出調査であり、全年齢層を対象とした把握が難しい。このため、現在までに研修やシンポジウムで関わった複数の自治体を視野に、調査への協力を依頼する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの感染予防にともなう出張の自粛、予算執行の停止のため、予定した自立相談支援窓口などへの現地調査が実施できなかった。これら延期された調査を次年度に実施したい。
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