2020 Fiscal Year Research-status Report
「8050問題」の実態調査およびライフステージに応じた効果的支援策の研究
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19K02130
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
川北 稔 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30397492)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 8050問題 / 社会的孤立 / ひきこもり / 生活困窮者 / 伴走型支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年間の研究期間のうち2年目に当たる2020年度は、3つのフィールドにおける調査を中心に作業を進展させた。 第1に、全国の生活困窮者の相談窓口を対象として「ひきこもりと命の危険」を主題に調査を実施した(報道機関との共同調査)。約1200の窓口のうち826窓口から40代以上のひきこもりの支援例について回答が得られた。「命の危険」がみられた事例について333窓口から、「支援中の死亡」の事例について149窓口から報告が得られた。注目すべき点として、死亡事例のなかで「病死」による事例(55事例)は「命の危険」ケースとの共通点が多く、本人が抱える課題として精神的な疾病等(約7割)、経済的な問題(7割弱)、医療の拒否(5-6割)の割合が共通して高かった。一方、「自殺」による事例(36事例)は生前の予兆が見つけにくいことが推察された。 第2に、愛知県内の自治体(A市)において、市民を対象として「社会的孤立」を主題とする調査を企画しており、関係者との協議を進めた(自治体との共同で2021年度に実査予定)。従来の狭い「ひきこもり」の概念に依拠せずに、無業の人を幅広く対象化しつつ、未婚、親との同居、対人接触の欠如などの状態が重なる割合の把握を意図する。 第3に、地域包括支援センターが支援する8050世帯に関する過去の調査結果を分析し、新たな調査企画に向けて協議を実施した(「セルフ・ネグレクトの予防的介入と重度化防止に資する包括的ケアシステムモデルの構築」研究課題19H03968の研究班との共同調査を予定)。 上記のような実態把握の試みとは別に、複合的な困難を抱えた人に対する伴走型支援の展望について検討した。その結果を「生きづらさを抱える人の支援活動における「当事者」像の課題」として大学内の研究報告に寄稿した(『愛知教育大学研究報告 人文・社会科学編』70、2021年)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に示したように、3つのフィールドにおける調査を中心に作業を進展させた。(1)生活困窮者の相談窓口を対象とする調査、(2)A市の市民に対する調査、(3)地域包括支援センターを対象とする調査である。 研究構想全体では、8050問題のライフステージに即した実態の理解と支援策の構築を目指している。(2)の調査は、A市における一般人口(15-64歳)を対象に、社会的に孤立する人の多面的な把握を意図する。従来の「ひきこもり」概念は社会的な所属(就学や就労)の喪失と、対人接触の欠如を意味する複合概念だが、多領域的な課題との比較を目指すうえでは問題が大きい。今回の調査では、無業の人を幅広く対象化しつつ、未婚、親との同居、対人接触の欠如などの状態が重なる度合いを明らかにできる。この分析を通じて、対象者における社会的孤立状態の重層的な重なりや、それぞれの状況における相談支援のニーズを明らかにする予定である。 (3)の調査では、地域包括支援センターを対象に、「高齢者と無業の子の同居事例」における課題を把握することを目的としている。2018年度に実施した調査のデータについて検討を重ねることで、深刻な生活課題(高齢者虐待)が浮上しているケース、親と子それぞれの精神疾患などが顕在化しているケース、現状では大きな課題がないケースなどへの分類が可能となった。この知見をもとに2021年度に規模を拡大した調査を計画している。 (1)については「研究実績の概要」に示した。 総括すると(2)の調査によってライフステージ全体の実態把握が期待できる一方、(1)と(3)は深刻化した課題に取り組む現場の実情を明らかにしている。それらの中間に位置する「ライフステージに即した支援策」の検討について本格的には着手できていない。このように各テーマに関する進捗状況は異なるが、研究期間終了までに一定の成果は期待できる状況といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」に示した通り、2021年度はA市の市民に対する調査を通じて、ライフステージを通じた社会的孤立の多層的な重なりについて明らかにする。従来、「ひきこもり」概念に依拠した調査は対象者の1.5%程度、実人数では50人に満たない人数の実態を把握してきた。一方で未婚の無業者は親への経済的依存や対人接触の欠如などの課題を抱えがちであり、その人口は40代・50代の3.9%、親と同居する場合に限れば2.2%に達する(2015年国勢調査)。A市の調査では対象者の状況ごとの困りごとや相談支援のニーズを聞き取り、狭い意味での「ひきこもり」支援に限らない支援策の充実を目指す。 一方で、生活困窮者窓口や地域包括支援センターの調査からは、精神疾患や経済的困窮、医療をはじめとするサービスの拒否が社会的孤立を深刻化させていることが浮かび上がる。2021年度もこれらのフィールドを対象に、既存データの再分析や新たな実査を予定している(「セルフ・ネグレクトの予防的介入と重度化防止に資する包括的ケアシステムモデルの構築」研究課題19H03968の研究班との共同調査を予定)。 課題として残るのは、一般人口を対象とした実態把握と、支援現場における困難事例分析の間をつなぐような、ライフステージに即した効果的支援策の導出といえる。現在までの調査では、各世代に偏在する孤立の実態や、特に深刻化した事例に関する知見は得られるが、孤立の深刻化を未然に防ぐための介入の糸口は十分に見出すことができていない。 当初予定していた生活困窮者支援窓口の調査は、2020年度に報道機関との共同調査で実現されたが、調査課題が「命の危険」に焦点化されたために計画の変更が伴った。別の方策として、若年者の就労支援現場において、特に発達障害に注目した支援の実例を探ることを予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、生活困窮者窓口における支援事例のインタビューをはじめとする現地調査の実施を差し控えた。関連して、学会大会や生活困窮者自立支援全国研究交流大会がオンライン開催となり、旅費の支出を次年度に持ち越すこととなった。
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