2019 Fiscal Year Research-status Report
日本統治下の台湾におけるラジオ文化に関する歴史社会学的研究
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19K02141
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
井川 充雄 立教大学, 社会学部, 教授 (00283333)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 台湾 / ラジオ / 同化政策 / 音文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度においては、日本統治時代の台湾におけるラジオ放送の聴取者に関する分析を行った。 分析にあたっては、ラジオ放送を所掌していた台湾総督府交通局が、毎年、編集・発行していた『台湾総督府逓信統計要覧』などの統計資料に基づいた量的な分析と、当時の2人の台湾人による日記を参照した質的な分析の両面からアプローチを試みた。 前者の量的分析からは、①台湾放送協会のラジオ放送が、当初はほとんど日本からやってきた「内地人」にしか聴かれておらず、しかも聴取者の半数以上は「銀行会社員」「公務員」といったホワイトカラー層であった。②しかし、日中戦争の勃発、そして太平洋戦争の開戦を契機として、徐々に、「商業」「自由業」といった職種に従事する人々にも戦況に関するニーズが高まり、さらに台湾語による第二放送が始まったことにより、もともと台湾で暮らしていた「本島人」にも、少しずつではあるが、ラジオが普及するようになっていった、ということがわかった。 他方、2人の台湾人の日記を見ると、そのラジオ聴取の様態には対照的な部分が見られる。民族運動のリーダーであった林献堂の場合、当初は、上海や南京のラジオ放送を聴くことが主たる目的であったように思われる。林献堂は、一時期、日本の皇民化政策に協力姿勢を取ったが、それからもラジオから日本の不利な戦況を知り、終戦を迎えた。他方、医師でもあり作家でもあった呉新栄の日記には、島外のラジオ放送に関する記述はなく、家族とともにラジオの聴取を楽しむ様子が記述され、ラジオが娯楽として家庭生活に定着していたことがわかる。 むろん、これは当時のラジオリスナーの全体を反映したものではない。今後は台湾人、そして台湾在住の日本人の日記や手記等を参照し、さらに当時の聴取の様態を解明することが課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度においては、アメリカでの資料収集を行うとともに、これまでに収集してあった資料の分析を行うなどして、日本統治下の台湾におけるラジオ文化・音文化の担い手であるラジオ聴取者の分析を行った。そうしたことから概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの成果を踏まえ、さらに台湾放送協会の成り立ちや「東亜放送網」の形成過程など、基本的な部分の資料収集ならびに考察を行うとともに、台湾における、ラジオによる文化的統合(同化政策)と新たな音文化の構築の過程を明らかにする。 研究にあたっては、できる限り第一次資料にあたり、実証的に諸問題を解明する。その際、日本、台湾のみならず、アメリカ、中国本土、韓国等関連する国々の文書館等も利用することで資料を多面的に収集する。また、すでにかなりの高齢となっているが、当時の関係者からの聴きとりを精力的に進め、後世の研究に供することを心がける。それとともに、台湾の研究者との交流も進めたい。
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Causes of Carryover |
当初、台湾での関係者に対するインタビューを計画していたが、実施に至らず、そのための人件費等を支出しなかった。また、研究成果発表のための国内旅費も使用しなかった。これらについては、2020年度に実施し、支出する予定である。
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Research Products
(1 results)